【量子コンピュータを作ろう!】(13)2つの独立した量子井戸に束縛された電子の基礎実験1:クーロン相互作用


本稿では、2量子ビットの量子ゲートを作るための基礎実験として、右図のような2つの量子井戸に束縛された2個の電子の固有状態を計算するよ。電子が入れ替わらない場合、2電子の波動関数はそれぞれの量子井戸内の固有状態の積で表すことができるね。つまり、それぞれの量子井戸の固有関数を計算するための正規直交系を

\begin{align}
\varphi_{n_1}(x_1) &\ = \sqrt{\frac{2}{L}}\sin\left[ k_{n_1} \left( x_1 + \frac{R}{2} + \frac{L}{2}\right)\right] \ , \
k_{n_1} = \frac{\pi(n_1+1)}{L} \\
\varphi_{n_2}(x_2) &\ = \sqrt{\frac{2}{L}}\sin\left[ k_{n_2} \left( x_2 – \frac{R}{2} + \frac{L}{2}\right)\right] \ , \
k_{n_2} = \frac{\pi(n_2+1)}{L} \\
\end{align}

と表した場合、2電子状態の固有関数は、先の正規直交系の積

\begin{align}
\varphi_{n_1n_2}(x_1, x_2) = \varphi_{n_1}(x_1)\varphi_{n_2}(x_2)
\end{align}

を用いて次のように展開することができるね。

\begin{align}
\psi(x_1, x_2) = \sum\limits_{n_1n_2} a_{n_1n_2} \varphi_{n_1n_2}(x_1, x_2)
\end{align}

これまでと同様、この系に対するハミルトニアンは

\begin{align}
\hat{H} = -\frac{\hbar^2}{2m_e}\, \frac{\partial^2}{\partial x_1^2} -\frac{\hbar^2}{2m_e}\, \frac{\partial^2}{\partial x_2^2} + \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\,\frac{1}{|x_1-x_2|} \equiv \hat{H}^{(0)}_1 + \hat{H}^{(0)}_2 +\hat{V}_{12}
\end{align}

なので、シュレーディンガー方程式

\begin{align}
\hat{H}\psi(x_1, x_2) = E \psi(x_1, x_2)
\end{align}

に代入して、$\varphi_{m_1m_2}^*(x_1, x_2)$ を両辺に掛けて全空間で積分すると

\begin{align}
(E^{(0)}_{m_1} + E^{(0)}_{m_2})a_{m_1m_2} + \sum\limits_{n_1n_2} a_{n_1n_2} \langle m_1,m_2| \hat{V}_{12} | n_1, n_2\rangle = E a_{m_1m_2}
\end{align}

と、いつもどおり固有値方程式が得られるね。ただし、

\begin{align}
E^{(0)}_{m_1} = \frac{\hbar^2k^2_{m_1}}{2m_e} \ &\ , \ E^{(0)}_{m_2} = \frac{\hbar^2k^2_{m_2}}{2m_e} \\
\langle m_1,m_2| \hat{V}_{12} | n_1, n_2\rangle &\ \equiv \int_{-\frac{R}{2}-\frac{L}{2}}^{-\frac{R}{2}+\frac{L}{2}} dx_1\int_{\frac{R}{2}-\frac{L}{2}}^{\frac{R}{2}+\frac{L}{2}} dx_2 \varphi_{m_1m_2}^*(x_1, x_2) V_{12} \varphi_{n_1n_2}(x_1, x_2)
\end{align}

だよ。この固有値方程式を解いて得られた固有ベクトルがそのまま先の展開係数 $a_{n_1n_2}$ となるね。最後に波動関数から得られる電子の存在確率は次のとおりだよ。

\begin{align}
\rho(x) = \left\{ \matrix{ 0 & x <-\frac{R}{2} - \frac{L}{2} \cr \int_{\frac{R}{2}-\frac{L}{2}}^{\frac{R}{2}+\frac{L}{2}} |\psi(x, x_2)|^2 dx_2 & -\frac{R}{2} - \frac{L}{2} \le x \le -\frac{R}{2} + \frac{L}{2} \cr 0 & -\frac{R}{2} + \frac{L}{2} < x < \frac{R}{2} - \frac{L}{2} \cr \int_{-\frac{R}{2}-\frac{L}{2}}^{-\frac{R}{2}+\frac{L}{2}} |\psi(x_1, x)|^2 dx_1 & \frac{R}{2} - \frac{L}{2} \le x \le \frac{R}{2} + \frac{L}{2} \cr 0 & \frac{R}{2} + \frac{L}{2} < x} \right. \end{align}

計算結果:2つの量子井戸の間隔依存性

まずリファレンスとして、クーロン相互作用が存在しない場合を示しておくよ。次の4つの図は量子井戸の幅 $L=10.0\times10^{-9} [{\rm m}]= 10[{\rm nm}]$、量子井戸の間隔 $R = 12[{\rm nm}]$ とした場合の基底状態から第3励起状態までの電子存在確率の空間分布だよ。独立した2つの量子井戸内の電子が想定通りに空間分布していることが確認できるね。ちなみに第1励起状態と第2励起状態はこの場合、エネルギー固有値は同じなので縮退しているよ。




続いて、先の電子間にクーロン相互作用が存在する場合の空間分布を示すよ。次の4つの図は量子井戸の幅 $L=10.0\times10^{-9} [{\rm m}]= 10[{\rm nm}]$ に固定して、2つの量子井戸の間隔を $R = 11[{\rm nm}]$ から $ 30 [{\rm nm}]$ まで $ 1 [{\rm nm}]$ づつ広げていったときの基底状態から第3励起状態までの電子存在確率の空間分布だよ。クーロン相互作用で電子は反発するので、電子分布は原点で空間対称となるね。間隔が狭いほど相互作用が無い場合と比較して量子井戸の右側だけとか左側だけとかが変化しているわけではないね。



最後に、下から6つのエネルギー準位の量子井戸間隔に対する依存性を示しておくよ。間隔が広がるほど電子間に働くクーロン相互作用に大きさは反比例して小さくなっていくので、エネルギーも反比例して小さくなっていくね。そして、第1励起状態と第2励起状態、第4励起状態と第5励起状態は縮退していくね。

次回は、これに静電場を加えてみるね。本当に電気双極子モーメントは発生するのだろうか?ちょっと心配になってきたね。


【量子コンピュータを作ろう!】(12)2つの独立した量子ドットに束縛された電子2個による2量子ビットの表現と2量子ビット万能量子ゲート


前回までで、1量子ビットを表現する量子井戸に束縛された電子の振る舞いを大体シミュレーションすることができたね。今回は、この量子井戸を2つ並べて2量子ビットとして利用するための表現方法と、2量子ビットの万能量子ゲートとして動作させるための動作原理についてまとめるよ。2量子ビットの表現を考える前にちょっと電磁気学の復習するよ。1つの量子ドットに束縛された電子に外部からx軸方向に静電場を加えた場合、電子が基底状態($| 0\rangle$)に存在する場合には電子は左に分布し、励起状態($| 1\rangle$)に存在する場合には電子は右に分布するんだったね(参照:(10)2重量子ドットに束縛された電子に静電場を加えたときの固有状態の計算結果)。この電子分布の偏りは第1次近似として次式で定義される電気双極子モーメント

\begin{align}
\boldsymbol{p}_E^{(1)} \equiv \int \boldsymbol{r}_1 \rho(\boldsymbol{r}_1) d\boldsymbol{r}_1 = \left\{ \matrix{ +\boldsymbol{p}_E & \cdots |0\rangle \cr -\boldsymbol{p}_E & \cdots|1\rangle }\right.
\end{align}

で表すことができるね。電気双極子モーメントは基底状態の場合は電気双極子が正の方向、励起状態の場合には負の方向に向くね。2つ目の量子井戸でも同様に

\begin{align}
\boldsymbol{p}_E^{(2)} &\ \equiv \int \boldsymbol{r}_2 \rho(\boldsymbol{r}_2) d\boldsymbol{r}_2 = \left\{ \matrix{ +\boldsymbol{p}_E & \cdots |0\rangle \cr -\boldsymbol{p}_E & \cdots|1\rangle }\right.
\end{align}

と表すことができるね。一般に2つの電気双極子モーメントが存在する場合、片方からもう片方への位置ベクトルを $\boldsymbol{R}$ として、相互作用によるポテンシャルエネルギーは

\begin{align}
U_E(\boldsymbol{R}) = \frac{1}{4\pi \epsilon_0}\, \frac{\boldsymbol{p}_E^{(1)}\cdot\boldsymbol{p}_E^{(2)}}{R^3} – \frac{3}{4\pi \epsilon_0}\, \frac{(\boldsymbol{p}_E^{(1)}\cdot\boldsymbol{R}) (\boldsymbol{p}_E^{(2)}\cdot\boldsymbol{R})}{R^5}
\end{align}

となるね。今回のように $\boldsymbol{R}$ の方向と電気双極子モーメントの向きが一直線の場合、

\begin{align}
U_E(R) = -\frac{1}{2\pi \epsilon_0}\, \frac{p_E^{(1)}p_E^{(2)}}{R^3} \equiv \mp \Delta U
\end{align}

となるので、電気双極子モーメントの向きが平行の場合には一致する場合にはエネルギーは $\Delta U$ 下がり、反対に向きが反平行の場合にエネルギーは $\Delta U$ 上がるね。この事実を用いて2量子ビットの量子ゲートを設計することができよ。

2量子ビットの量子状態の表現

1量子ビットの場合、量子井戸の基底状態と励起状態の固有関数の具体的な関数形は考えずに、それぞれケットを用いて $|0\rangle$ , $|1\rangle$ と表せることをはすでに解説したね。2量子ビットの場合、1つ目の「0」or「1」を第1量子ビットの状態、2つ目の「0」or「1」を第2量子ビットの状態として、$|0\rangle \otimes |0\rangle$ , $|0\rangle \otimes |1\rangle$ , $|1\rangle \otimes |0\rangle$ , $|1\rangle \otimes |1\rangle$ と表すことができるよ。「$\otimes$」は数学的には直積と呼ばれ、「$\otimes$」の前後の異なる座標系の状態をつなぐ役割を果たすよ。なお、「$\otimes$」を毎回書くのが煩わしい場合は、「$\otimes$」を省略して、$|00\rangle$, $|01\rangle$, $|10\rangle$, $|11\rangle$ とも表すよ。

電気双極子モーメント演算子と相互作用演算子

先に解説したとおり、量子井戸の基底状態と励起状態のどちらに存在するかによって、電気双極子モーメントの向きが異なるね。状態 $|0\rangle$ と $|1\rangle$ に作用する電気双極子モーメント演算子 $\hat{\boldsymbol{p}}_E$ を次のように定義するよ。

\begin{align}
\hat{\boldsymbol{p}}_E |0\rangle &\ = +\boldsymbol{p}_E |0\rangle \\
\hat{\boldsymbol{p}}_E |1\rangle &\ = -\boldsymbol{p}_E |1\rangle
\end{align}

この電気双極子モーメント演算子は2つの量子井戸の電子それぞれ個別に作用するので、先の2量子ビットの量子状態の表現を用いると

\begin{align}
\hat{\boldsymbol{p}}_E \otimes \hat{\boldsymbol{p}}_E |00\rangle &\ = +\boldsymbol{p}_E^2 |00\rangle \\
\hat{\boldsymbol{p}}_E \otimes \hat{\boldsymbol{p}}_E |01\rangle &\ = -\boldsymbol{p}_E^2 |01\rangle \\
\hat{\boldsymbol{p}}_E \otimes \hat{\boldsymbol{p}}_E |10\rangle &\ = -\boldsymbol{p}_E^2 |10\rangle \\
\hat{\boldsymbol{p}}_E \otimes \hat{\boldsymbol{p}}_E |11\rangle &\ = +\boldsymbol{p}_E^2 |11\rangle \\
\end{align}

と計算することができるよ。つまり、電気双極子モーメント同士の相互作用を表す演算子 $V_E$は

\begin{align}
V_E = -\frac{1}{2\pi \epsilon_0}\, \frac{\hat{\boldsymbol{p}}_E \otimes \hat{\boldsymbol{p}}_E}{R^3}
\end{align}

と表すことができるね。

2量子ビットのハミルトニアン

電気双極子モーメントの相互作用演算子を定義できたので、あとはそれぞれの量子井戸の電子単体のハミルトニアンを考えるだけだね。$\hat{H}_1$ と $\hat{H}_2$ はそれぞれの量子井戸中の電子に静電場が加えられたときのハミルトニアンとして、第1量子ビットと第2量子ビットの基底状態エネルギーをそれぞれ $E_1^{(0)}$ と $E_2^{(0)}$、励起状態のエネルギーをそれぞれ $E_1^{(1)}$ と $E_2^{(1)}$ と表した場合、次のような固有状態とあらすことができるね。

\begin{align}
(\hat{H}_1 \otimes \boldsymbol{1} + \boldsymbol{1} \otimes\hat{H}_2 ) |00\rangle &\ = (E_1^{(0)} + E_2^{(0)}) |00\rangle\\
(\hat{H}_1 \otimes \boldsymbol{1} + \boldsymbol{1} \otimes\hat{H}_2 ) |10\rangle &\ = (E_1^{(1)} + E_2^{(0)}) |10\rangle\\
(\hat{H}_1 \otimes \boldsymbol{1} + \boldsymbol{1} \otimes\hat{H}_2 ) |01\rangle &\ = (E_1^{(0)} + E_2^{(1)}) |01\rangle\\
(\hat{H}_1 \otimes \boldsymbol{1} + \boldsymbol{1} \otimes\hat{H}_2 ) |11\rangle &\ = (E_1^{(1)} + E_2^{(1)}) |11\rangle
\end{align}

このハミルトニアンに先の電気双極子モーメントの相互作用演算子を加えると、ハミルトニアン $\hat {H}$ が完成するね。

\begin{align}
\hat {H} &\ = \hat{H}_1 \otimes \boldsymbol{1} + \boldsymbol{1} \otimes\hat{H}_2 + \hat{V}_E \\
\hat{V}_E &\ = -\frac{1}{2\pi \epsilon_0}\, \frac{\hat{\boldsymbol{p}}_E \otimes \hat{\boldsymbol{p}}_E}{R^3}
\end{align}

2量子ビットの量子状態はこのハミルトニアンの固有状態となっているよ。

\begin{align}
\hat {H} |00\rangle &\ = (E_1^{(0)} + E_2^{(0)} – \Delta U_E) |00\rangle\\
\hat {H} |10\rangle &\ = (E_1^{(1)} + E_2^{(0)} + \Delta U_E) |10\rangle\\
\hat {H} |01\rangle &\ = (E_1^{(0)} + E_2^{(1)} + \Delta U_E) |01\rangle\\
\hat {H} |11\rangle &\ = (E_1^{(1)} + E_2^{(1)} – \Delta U_E) |11\rangle
\end{align}

2量子ビット万能量子ゲートについて


2量子ビット量子ゲートとは、2つの量子ビットの状態を入力とし、変化した2つの量子ビットの状態を出力とみなす素子を抽象化した表現だよ。右図のAとBが入力前の量子ビットの状態を表していて、A’とB’が変化後の量子ビットの状態を表しているよ。A, B, A’, B’ はそれぞれ $|0\rangle$ と $|1\rangle$ の任意の重ね合わせで与えられるよ。このような2量子ビット量子ゲートで最も重要なのは、A, B, A’, B’ の関係が下の真理値表で表される「制御・NOT演算(CNOT)ゲート」と呼ばれる量子ゲートだよ。

A B
0 0
0 1
1 0
1 1
A’ B’
0 0
0 1
1 1
1 0

制御・NOT演算ゲートは、入力Aが $0$ の場合はBには何の変化もなく、入力 A が $1$ の場合は入力された B のビットを反転(NOT演算)させるよ。論理式で表すと

\begin{align}
A’&\ =A\\
B’&\ = A \otimes B
\end{align}

となるよ。この場合の「$\otimes$」は排他的論理和を表す記号で、先の直積とは違う意味だよ。そして実は、制御・NOT演算ゲートは複数組み合わせることで2量子ビットで構成される論理ゲートをすべて表現することができるんだよ!そのため、制御・NOT演算ゲートは2量子ビットの万能量子ゲートとも呼ばれるよ。2量子ビットの状態をケットベクトル

\begin{align}
|00\rangle = \left( \matrix{ 1\cr 0 \cr 0 \cr 0} \right) , |01\rangle = \left( \matrix{ 0\cr 1 \cr 0 \cr 0} \right), |10\rangle = \left( \matrix{ 0\cr 0 \cr 1 \cr 0} \right) , |11\rangle = \left( \matrix{ 0\cr 0 \cr 0 \cr 1} \right)
\end{align}

で表した場合、制御・NOT演算ゲート(CNOT)は

\begin{align}
{ \rm CNOT} = \left( \matrix{ 1& 0& 0&0 \cr 0&1 &0 & 0 \cr 0 & 0 & 0 & 1 \cr 0 & 0 &1& 0} \right)
\end{align}

と表すことができるね。実際に上記の真理値表を満たしていることが確認できるね。

\begin{align}
{\rm CNOT} |00\rangle &\ = |00\rangle\\
{\rm CNOT} |01\rangle &\ = |01\rangle\\
{\rm CNOT} |10\rangle &\ = |11\rangle\\
{\rm CNOT} |11\rangle &\ = |10\rangle\\
\end{align}

制御・NOT演算ゲートの動作原理

次に2量子ビット万能量子ゲートである制御・NOT演算ゲートを、2つの量子井戸を用いて具体的にどのようにして作ることができるのか解説するよ。本稿の前半で示したとおり、静電場が加えられた量子井戸中の電子は、基底状態($|0\rangle$)と励起状態($|1\rangle$)で異なる向きの電気双極子モーメントをもつので、相互作用の結果、第1量子井戸の電子状態が $|0\rangle$ か $|1\rangle$ によって、第2量子井戸の基底状態のと励起状態のエネルギー準位は変化するね。具体的には、第1量子井戸の電子状態が $|0\rangle$ の場合には第2量子井戸のエネルギーギャップは広がり、反対に第1量子井戸の電子状態が $|1\rangle$ の場合には第2量子井戸のエネルギーギャップは狭まるね。次の図はその模式図だよ。

一方、エネルギーギャップに対応する電磁波を入射すると、これまでに何度か示したラビ振動を引き起こすことができるんだったね。つまり、狭まったエネルギーギャップ($\Delta E_2$)に相当する電磁波を入射すると、第1量子井戸の電子状態が $|0\rangle$ の場合には変化しないけれども、第1量子井戸の電子状態が $|0\rangle$ の場合には第2量子井戸の状態をラビ振動させることができるので、入射時間を適切にコントロールすることで、制御・NOT演算ゲートと同じ動作をさせることができるね。

制御・NOT演算ゲートに対応するハミルトニアンと計算方法

以上から2つの量子井戸に束縛された電子を量子ビットとして用いた場合の制御・NOT演算ゲートに対応するハミルトニアンは次のような式に与えられる。

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_1 \otimes \boldsymbol{1} + \boldsymbol{1} \otimes \hat{H}_2 + \hat{V}_E + \boldsymbol{1} \otimes \hat{V}_A(t)
\end{align}

$\hat{H}_1$ と $\hat{H}_2$ は電子の運動エネルギーと外部静電場によるポテンシャル項をあわせたもの、$\hat{V}_E$ は電気双極子モーメントによる相互作用項、$\hat{V}_A(t)$ は第2量子井戸に入射する電磁波との相互作用項だよ。この内、時間に依存する項は最後の $\hat{V}_A(t)$ だけだね。実際にシミュレーションするには、任意の状態 $\psi(t)\langle$ を

\begin{align}
|\psi(t)\rangle = a_{00}(t)|00\rangle + a_{01}(t)|01\rangle + a_{10}(t)|10\rangle + a_{11}(t)|11\rangle \equiv \sum\limits_{n=0} a_n (t) |n\rangle
\end{align}

と展開しておいて、時間に依存するシュレーディンガー方程式

\begin{align}
i\hbar \frac{d}{dt}|\psi(t)\rangle = \hat{H}|\psi(t)\rangle
\end{align}

に代入して、左から $\langle m |$ を掛けて得られる連立微分方程式

\begin{align}
i\hbar \frac{d a_{m}(t)}{dt} \, = \sum\limits_{n=0} \langle m |\hat{H}|n\rangle a_n(t)
\end{align}

を計算すればいいね。次回は実際に計算を行うけれども、その前に上記のハミルトニアンは重要な近似がなされているのがちょっと気になるね。というのも、2つの電子同士の相互作用を電気双極子モーメントの相互作用だけを取り込んでいる点が不満だね。やはりできるだけ第一原理的にやりたいので、$V_E$ をクーロンポテンシャル

\begin{align}
\hat{V}_E = \frac{1}{4\pi \epsilon_0}\, \frac{1}{|x_1 – x_2|}
\end{align}

として、まずは2つの量子井戸の電子相互作用を踏まえた固有状態を計算してみるね。


【量子コンピュータを作ろう!】(11)量子ドットに束縛された電子2個に対するハミルトニアンと計算方法(失敗)


今回から2量子ビットを作るための方法を考えていくね。本稿ではその第一歩として1個の量子ドットに2個の電子を投入したときの固有状態を計算するための計算方法を解説するよ。電子のようにスピンが1/2の粒子が複数個存在する場合、スピン座標を含めて波動関数の座標を交換すると反対称(符号が反転)することが知られているよ(ディラック方程式より)。スピンが1/2の電子のような粒子は、スピン演算子の特定成分の固有値が $\pm\hbar/2$ の2つのなるので、$+$ 符号を上向き、$-$ 符号を下向きと表すことが多いいね。2個の粒子のスピンが同じ向き(平行スピン)の場合には波動関数全体で反平行になる必要があるので空間部分は反対称になるのに対して、2個の粒子のスピンが反対向き(反平行スピン)の場合には空間部分は対称になる必要があるね。1粒子の波動関数をこれまでと同じ

\begin{align}
\varphi_n(x) = \sqrt{\frac{2}{L}} \sin\left[ k_n (x + \frac{L}{2}) \right] \ , \ E^{(0)}_n = \frac{\hbar^2 k_n^2}{2m_e} \ , \ k_n = \frac{\pi(n+1)}{L}
\end{align}

と表した場合、2個の電子の空間対称関数($\varphi^{(S)}$)と空間反対称関数($\varphi^{(A)}$)は2つの電子位置を $x_1$ と $x_2$ として、それぞれ次のように表されるよ。

\begin{align}
\varphi^{(S)}_{n_1n_2}(x_1,x_2) &\ = \frac{1}{\sqrt{2}} \left[ \varphi_{n_1}(x_1)\varphi_{n_2}(x_2) + \varphi_{n_1}(x_2)\varphi_{n_2}(x_1) \right]\\
\varphi^{(A)}_{n_1n_2}(x_1,x_2) &\ = \frac{1}{\sqrt{2}} \left[ \varphi_{n_1}(x_1)\varphi_{n_2}(x_2) – \varphi_{n_1}(x_2)\varphi_{n_2}(x_1) \right]
\end{align}

空間対称関数の場合、$x_1$ と $x_2$ を入替えても変化しないのに対して、空間反対称関数の場合、座標を入替えると符号がマイナスになるね。ただし、$n_1 = n_2$ の場合、空間対称関数の場合の係数は $1$ とする必要があることと、反対称関数の場合には関数値が $0$ になることに注意が必要だね。もし2個の電子が相互作用をしない場合、基底状態は空間対称関数(反平行スピン)で $n_1=n_2=0$ の場合だね。

\begin{align}
\varphi^{(S)}_{00}(x_1,x_2) = \varphi_{0}(x_1)\varphi_{0}(x_2)
\end{align}

第一励起状態は空間反対称関数(平行スピン)で $n_1=1, n_2=0$ あるいは $n_1=0, n_2=1$ の場合だね。

\begin{align}
\varphi^{(A)}_{10}(x_1,x_2) &\ = \frac{1}{\sqrt{2}} \left[ \varphi_{1}(x_1)\varphi_{0}(x_2) – \varphi_{0}(x_2)\varphi_{1}(x_1) \right]\\
\varphi^{(A)}_{01}(x_1,x_2) &\ = \frac{1}{\sqrt{2}} \left[ \varphi_{0}(x_1)\varphi_{1}(x_2) – \varphi_{1}(x_2)\varphi_{0}(x_1) \right]
\end{align}

両者とも単に符号が反転しているだけなので、同じ関数を表しているよ。

電子間のクーロン力を考慮した場合のハミルトニアンと固有状態の計算方法

電子は同符号の電荷を持っているので互いに反発するね。そのため、基底状態は先に示したような簡単な形にはならないね。クーロン力を考慮した場合の2個の電子に対するハミルトニアンは次のとおりだよ。

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_1 + \hat{H}_2 + V(|x_1-x_2|)= -\frac{\hbar^2}{2m_e}\, \frac{\partial^2}{\partial x_1^2} -\frac{\hbar^2}{2m_e}\, \frac{\partial^2}{\partial x_2^2} + \frac{1}{4\pi\epsilon_0} \, \frac{1}{|x_1 – x_2|}
\end{align}

前の2項はそれぞれの電子の運動エネルギー、最後の項は相互作用を表しているね。このハミルトニアンの固有関数を $\psi^{(S)}(x_1, x_2)$(空間対称関数)、$\psi^{(A)}(x_1, x_2)$(空間反対称関数)と表した場合のシュレディンガー方程式は

\begin{align}
\hat{H} \psi^{(S)}(x_1, x_2) &\ = E \psi^{(S)}(x_1, x_2) \\
\hat{H} \psi^{(A)}(x_1, x_2) &\ = E \psi^{(A)}(x_1, x_2)
\end{align}

だね。この $\psi(x_1, x_2)$ は正規直交系である $\varphi^{(S)}_{n_1n_2}$ あるいは $\varphi^{(A)}_{n_1n_2}$ で展開できるはずなので、次のように表すことができるよ。

\begin{align}
\psi^{(S)}(x_1, x_2) &\ = \sum\limits_{n_1,n_2} a_{n_1n_2}\, \varphi^{(S)}_{n_1n_2}(x_1, x_2) \\
\psi^{(A)}(x_1, x_2) &\ = \sum\limits_{n_1,n_2} a_{n_1n_2}\, \varphi^{(A)}_{n_1n_2}(x_1, x_2)
\end{align}

ちなみに空間対称関数と反対称関数は直交するため混じり合うことは無いよ。ここからはいつもの常套手段でいくよ。この固有関数をハミルトニアンに代入して、両辺に $\varphi^{(S)*}_{n_1n_2}(x_1, x_2)$ あるいは $\varphi^{(A)*}_{m_1m_2}(x_1, x_2)$ を掛け算して全空間で積分すると

\begin{align}
a_{m_1m_2} ( E_{n_1}^{(0)} + E_{n_2}^{(0)}) + \sum\limits_{n_1,n_2} \langle m_1m_2|V(|x_1-x_2|)| n_1 n_2 \rangle a_{n_1n_2} = E a_{m_1m_2}
\end{align}

となるね。これは展開係数 $a_{m_1m_2}$ についての連立方程式となっているよ。対称性と反対称性の違いはブラ・ケット表記で表した積分

\begin{align}
\langle m_1m_2|V(|x_1-x_2|)| n_1 n_2 \rangle a_{n_1n_2} \equiv \left\{ \matrix{ \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}}\int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \varphi^{(S)*}_{m_1m_2}(x_1, x_2) V(|x_1-x_2|) \varphi^{(S)}_{n_1n_2}(x_1, x_2)dx_1dx_2 \cr \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}}\int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \varphi^{(A)*}_{m_1m_2}(x_1, x_2) V(|x_1-x_2|) \varphi^{(A)}_{n_1n_2}(x_1, x_2)dx_1dx_2 } \right.
\end{align}

に違いが現れるね。次回は実際に固有状態を計算するよ。

追記:2019.07.16

同じ量子井戸に2個の電子を配置する場合、上記のような展開では積分が発散してしまうため、計算不能となってしまうね。発散を抑えられる正規直交展開にしないといけないけれども、どうしてもうまくいかないので、この方法は一度断念するね。


【量子コンピュータを作ろう!】(10)2重量子ドットに束縛された電子に静電場を加えたときの固有状態の計算結果(シュタルク効果)


前回計算した2重量子ドットに束縛された電子の固有状態にさらに外部から静電場を加えたときの様子をシミュレーションするよ(静電場の向き:x軸の正方向)。電子分布が偏ってエネルギー準位がシフトするシュタルク効果が期待できるね。2重井戸の場合はどんな形になるのかな。ハミルトニアンのポテンシャル項は次のとおりだよ。

\begin{align}
V(x) = \left\{ \matrix{ \infty & x \leq -\frac{L}{2} \cr e E_x x & -\frac{L}{2} \leq x\leq -\frac{W}{2} \cr V & -\frac{W}{2}
\leq x\leq \frac{W}{2} \cr e E_x x& \frac{W}{2} \leq x\leq \frac{L}{2} \cr \infty & \frac{L}{2} \leq x} \right.
\end{align}

なお、具体的なパラメータとして、量子井戸全体のサイズを $L = 10[{\rm nm}]$、真ん中の壁のサイズを $W = 2[{\rm nm}]$、壁の高さを $0.3[{\rm eV}]$ として、静電場の強さを $0 \sim2.0\times10^{6}[{\rm V/m}]$ と $0.1$ ずつ変化させてみたよ。まずは、固有状態から見てみよう!

固有状態の空間分布

基底状態と第一励起状態

次の図は、静電場の強さを $0 \sim2.0\times10^{6}[{\rm V/m}]$ と $0.1$ ずつ変化させたときの基底状態(左)と第一励起状態(右)の空間分布だよ。静電場を少し加えただけで、電子は片端に偏っているね。ちょっとした外部静電場で電気双極子が生じていると言えるね。興味深いことに、真ん中に壁が無い場合の電気双極子と比較して、かなり弱い電場強度で同等の分極率(100倍)が得られているね(壁無し:$10\times10^{6}$ で基底状態のピーク位置が$2.7[{\rm nm}]$ 程度、壁有り:$0.1\times10^{6}$ でピーク位置が$2.7[{\rm nm}]$ 程度)。特に壁無しの第一励起状態は分極率は小さそうだったので、かなりの差だと言えるね。

第二励起状態と第三励起状態

次の図は、静電場の強さを $0 \sim2.0\times10^{6}[{\rm V/m}]$ と $0.1$ ずつ変化させたときの第二励起状態(左)と第三励起状態(右)の空間分布だよ。静電場を $0.3 \times10^{6}[{\rm V/m}]$程度加えただけで、電子は片端に偏っているね。基底状態に対してより強い電場が必要なのは、もともとエネルギーが高い状態だからだね。

エネルギー準位の静電場依存性

次の図は下から6つのエネルギー準位の壁の高さ依存性だけれども、通常のシュタルク効果と同様、静電場によって縮退している状態が解けて、電場強度に比例した大きさのエネルギーシフトが見られるね。先に示したとおり、僅かな静電場で電気双極子が得られるので、この2重量子井戸をそのまま1量子ビットに用いることで、量子ビット間の相互作用を強めることができる可能性があるね。

次回はいよいよ電子2個に進むよ。まずは1重の量子井戸に2個の電子を束縛したときの固有状態を計算するよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(9)2重量子ドットに束縛された電子の固有状態の計算結果


前回導出した2重量子ドットに束縛された電子の固有状態の計算方法を用いて計算した結果を示すよ。具体的なパラメータとして、量子井戸全体のサイズを $L = 10[{\rm nm}]$、真ん中の壁のサイズを $W = 2[{\rm nm}]$ として、壁の高さを $0 \sim 0.5[{\rm eV}]$ と $0.025$ ずつ変化させてみたよ。まずは、固有状態から見てみよう!

固有状態の空間分布

基底状態

次の図は、壁の高さを $0 \sim 0.5[{\rm eV}]$ と $0.025$ ずつ変化させたときの基底状態の空間分布だよ。壁の高さが高くなるほど電子分布のピークは両サイドの中心に移動していく様子が分かるね。ちなみに、基底状態の固有エネルギーは約 $0.004[{\rm eV}]$ だよ。

第一励起状態

次の図は、壁の高さを $0 \sim 0.5[{\rm eV}]$ と $0.025$ ずつ変化させたときの第一励起状態の空間分布だよ。壁の高さが高くなるほど電子分布のピークは両サイドの中心に移動していくけれども、もともと第一励起状態は sin関数的なので変化は小さいね。ちなみに、基底状態の固有エネルギーは $0.015[{\rm eV}]$ 程度だよ。

第二励起状態

次の図は、壁の高さを $0 \sim 0.5[{\rm eV}]$ と $0.025$ ずつ変化させたときの第二励起状態の空間分布だよ。基底状態と同様、壁の高さが高くなるほど電子分布のピークは両サイドの中心に移動していく様子が分かるね。ちなみに、基底状態の固有エネルギーは約 $0.034[{\rm eV}]$ だよ。

第三励起状態

次の図は、壁の高さを $0 \sim 0.5[{\rm eV}]$ と $0.025$ ずつ変化させたときの第三励起状態の空間分布だよ。第一励起状態と同様、壁の高さが高くなるほど電子分布のピークは両サイドの中心に移動していくけれども、もともと第三励起状態は sin関数的なので変化は小さいね。ちなみに、基底状態の固有エネルギーは約 $0.060[{\rm eV}]$ だよ。

エネルギー準位の壁の高さ依存性

先の固有状態からわかるとおり、壁の高さを高くするほど基底状態と第一励起状態、また第二励起状態と第三励起状態が一致していくね。これは、壁が高くなるほど、2つの領域はそれぞれ孤立していくことに起因するね。次の図は下から6つのエネルギー準位の壁の高さ依存性だけれども、このことはグラフにも現れているね。おおよそ壁の高さが $0.3[{\rm eV}]$ で基底状態と第一励起状態、第二励起状態と第三励起状態の固有エネルギーが概ね一致しているね。ちなみに、横の点線 $E_0=0.023[{\rm eV}]$ と $E_1=0.094[{\rm eV}]$ は、壁の高さが無限大とした場合の固有エネルギーの値だよ。

次回はさらに静電場を加えてみるよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(8)2重量子ドットに束縛された電子の固有状態の計算方法(改)


前回、各領域に分けて接続条件から固有状態を計算しようと考えたけれど、よく考えたらこの方法は考え方が間違っているね。特に、特定の壁の高さや幅でしか固有状態が存在しないって言う点は完全に間違いだね。「単一の波数だけで固有状態をなす」という意味では特定の壁の高さや幅でしか固有状態が存在しないというのは正しいけれども、てっきり解析的に固有状態が求まると思い込んでいたことが問題だったね。ということで、これまでと同様に、解を正規直交系で展開して固有値方程式を解く必要がありそうだね。

固有状態の計算方法

1次元井戸型ポテンシャルのハミルトニアンは

\begin{align}
\hat{H} = -\frac{\hbar^2}{2m_e}\, \frac{d^2}{d x^2} + V(x)
\end{align}

で表されるね。$V(x)$ は以下のとおりだよ。

\begin{align}
V(x) = \left\{ \matrix{ \infty & x \leq -\frac{L}{2} \cr 0 & -\frac{L}{2} \leq x\leq -\frac{W}{2} \cr V & -\frac{W}{2} \leq x\leq \frac{W}{2} \cr 0 & \frac{W}{2} \leq x\leq \frac{L}{2} \cr \infty & \frac{L}{2} \leq x} \right.
\end{align}

このハミルトニアンの固有状態 $\bar{\varphi}(x)$ を、真ん中に壁が存在しない場合の固有関数

\begin{align}
\varphi_n(x) = \sqrt{\frac{2}{L}}\sin\left[ k_n \left( x + \frac{L}{2}\right)\right] \ , \ k_n = \frac{\pi(n+1)}{2}
\end{align}

\begin{align}
\bar{\varphi}(x) = \sum\limits_{n=0} a_0 \varphi_n(x)
\end{align}

と展開することを考えるよ。この固有関数をシュレーディンガー方程式 $\hat{H} \bar{\varphi}(x) = E\bar{\varphi}(x)$ に代入して、両辺に $\varphi_m(x)^*$ を掛けて全空間で積分するよ。これまでと同様、展開係数 $a_m$ についての連立方程式が導かれるね。

\begin{align}
E_m a_m + \sum\limits_{n=0}\langle m |V(x)| n \rangle a_n = E a_m
\end{align}

ただし、

\begin{align}
\langle m |V(x)| n \rangle \equiv \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \varphi_m(x)^* V(x) \varphi_n(x) dx
\end{align}

だよ。次回は固有関数を計算してみるよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(7)2重量子ドットに束縛された電子の固有状態の計算方法(2重量子井戸型ポテンシャル)


1量子ビットに対応する量子ドットに対するシミュレーションをこれまでやってきたけれども、2量子ビットに対応する2重量子ドットに束縛された電子の固有状態を調べるよ。具体的には右図のように1次元の幅 $L$ の量子井戸の真ん中に幅 $W$ のポテンシャル障壁を作って、2個の電子がそれぞれに配置されるような状況を考えたいけれども、今回はその準備として、電子が1個の場合を固有状態の計算方法を示すよ。

固有状態の計算方法

図のような無限に高い井戸型ポテンシャル内に壁があるような場合、ポテンシャルの大きさによって空間領域を3つに分けて、それぞれの領域$(\rm I), (II), (III)$で右向きと左向きの平面波が存在すると仮定して、

\begin{align}
\varphi^{(\rm I)}_n (x) &\ = A e^{ik^{(\rm I)}(x+\frac{W}{2})} + B e^{-ik^{(\rm I)}(x+\frac{W}{2})} \ \ \ (-\frac{L}{2} \leq x\leq -\frac{W}{2} ) \\
\varphi^{(\rm II)}_n (x) &\ = C e^{ik^{(\rm II)}x} + D e^{-ik^{(\rm II)}x} \ \ \ (-\frac{W}{2} \leq x\leq \frac{W}{2} ) \\
\varphi^{(\rm III)}_n (x) &\ = E e^{ik^{(\rm III)}(x-\frac{W}{2})} + F e^{-ik^{(\rm III)}(x-\frac{W}{2})} \ \ \ (\frac{W}{2} \leq x\leq \frac{L}{2} ) \\
\end{align}

と表しておいて、各領域間の境界条件

\begin{align}
\varphi^{(\rm I)}_n (-\frac{L}{2}) = 0 \ &\ , \ \varphi^{(\rm III)}_n (\frac{L}{2}) = 0\\
\varphi^{(\rm I)}_n (-\frac{W}{2}) = \varphi^{(\rm II)}_n (-\frac{W}{2}) \ &\ , \ \left.\frac{d\varphi^{(\rm I)}_n (x)}{d x}\right|_{x=-\frac{W}{2}} = \left.\frac{d \varphi^{(\rm II)}_n (x)}{d x}\right|_{x=-\frac{W}{2}} \\
\varphi^{(\rm II)}_n (\frac{W}{2}) = \varphi^{(\rm III)}_n (\frac{W}{2}) \ &\ , \ \left.\frac{d\varphi^{(\rm II)}_n (x)}{d
x}\right|_{x=\frac{W}{2}} = \left.\frac{d \varphi^{(\rm III)}_n (x)}{d x}\right|_{x=\frac{W}{2}}
\end{align}

を課すことで、係数($A, B, C, D, E, F$)の関係を導出するよ。ただし、それぞれの領域の平面波の波数は電子のエネルギー $E$ に対して

\begin{align}
k^{(\rm I)} = \frac{\sqrt{2m_eE}}{\hbar} \ , \ k^{(\rm II)} = \frac{\sqrt{2m_e(E-V)}}{\hbar} \ , \ k^{(\rm III)} = \frac{\sqrt{2m_eE}}{\hbar}
\end{align}

を満たすよ。そのため、$k^{(\rm I)} = k^{(\rm III)}$ であることがわかるね。

(1)$x= -L/2$ の境界条件

領域(I)の波動関数 $\varphi^{(\rm I)}_n (x)$ に$x= -L/2$ の境界条件を課してみよう!

\begin{align}
A e^{-ik^{(\rm I)}(\frac{L}{2} – \frac{W}{2})} + B e^{ik^{(\rm I)}(\frac{L}{2} – \frac{W}{2})} &\ = 0 \\
&\ \downarrow \\
(A+B) \cos\left[k^{(\rm I)}\left(\frac{L}{2} – \frac{W}{2}\right)\right] + i (-A+B) \sin\left[k^{(\rm I)}\left(\frac{L}{2} – \frac{W}{2}\right)\right] &\ = 0\\
\end{align}

となることから、これを満たす非自明な解($A=0, B=0$以外の解)は、

\begin{align}
A = B \ , \ k^{(\rm I)}\left(\frac{L}{2} – \frac{W}{2}\right) = \pi \left(n +\frac{1}{2} \right)
\end{align}

あるいは

\begin{align}
A = -B \ , \ k^{(\rm I)}\left(\frac{L}{2} – \frac{W}{2}\right) = \pi(n+1)
\end{align}

を満たす必要があるね($n=0,1,2,3,\cdots$)。両者はそれぞれ

\begin{align}
\varphi^{(\rm I)}_n (x) &\ = 2A \cos \left[ \frac{ 2\pi\left(n +\frac{1}{2} \right)}{L-W} \left(x +\frac{W}{2} \right) \right] = -2A \sin \left[ \frac{ 2\pi\left(n +\frac{1}{2} \right)}{L-W} \left(x +\frac{L}{2} \right) – \pi n\right] \\
\varphi^{(\rm I)}_n (x) &\ = 2iB \sin \left[ \frac{2\pi (n+1)}{L – W} \left(x +\frac{W}{2} \right) \right] = -2iB \sin \left[ \frac{2\pi (n+1)}{L – W} \left(x +\frac{L}{2} \right) – \pi (n+1) \right]
\end{align}

となるけれども、$\sin$ 関数内の波数に対応する部分に着目すると、前者の($2n+1$)は奇数、後者のの($2(n+1)$)は偶数を表すので、結局は両者を合わせると0を含めた全自然数となるね。係数は改めて置き直して、

\begin{align}
\varphi^{(\rm I)}_n (x) &\ = A_n \sin \left[ k^{(\rm I)}_n \left(x +\frac{L}{2} \right) \right] \ , \ k^{(\rm I)}_n = \frac{\pi(n+1)}{L- W}
\end{align}

となるね($n=1,2,3,\cdots$)。この関係からエネルギーも離散化されて

\begin{align}
E_n = \frac{\hbar^2 {k^{(I)}_n}^2}{2m_e} = \frac{\hbar^2}{2m_e} \left[ \frac{\pi(n+1)}{L- W}\right]^2
\end{align}

であることもわかるね。

(2)$x= L/2$ の境界条件

領域(III)の波動関数 $\varphi^{(\rm III)}_n (x)$ に$x= L/2$ の境界条件を課した結果も、先と全く同様となるね。対称性を考慮してかつ係数を改めて $F_n$ と置いておくよ。

\begin{align}
\varphi^{(\rm III)}_n (x) &\ = F_n \sin \left[ k^{(\rm III)}_n \left(x -\frac{L}{2} \right) \right] \ , \ k^{(\rm III)}_n = \frac{\pi(n+1)}{L- W}
\end{align}

(3)$x= -\frac{W}{2}$ の境界条件

領域(I)と領域(II)の2つの波動関数の境界条件を課してみよう!

\begin{align}
\varphi^{(\rm I)}_n (-\frac{W}{2}) = \varphi^{(\rm II)}_n (-\frac{W}{2}) \ &\ \longrightarrow \ A_n \sin \left[ k^{(\rm I)}_n \left(-\frac{W}{2} + \frac{L}{2} \right) \right] = C e^{-ik^{(\rm II)}\frac{W}{2}} + D e^{ik^{(\rm II)}\frac{W}{2}} \\
\left.\frac{d\varphi^{(\rm I)}_n (x)}{d x}\right|_{x=-\frac{W}{2}} = \left.\frac{d \varphi^{(\rm II)}_n (x)}{d x}\right|_{x=-\frac{W}{2}} \ &\ \longrightarrow \ A_n k^{(\rm I)}_n \cos \left[ k^{(\rm I)}_n \left(-\frac{W}{2} + \frac{L}{2} \right) \right] = i C k^{(\rm II)} e^{-ik^{(\rm II)}\frac{W}{2}} – iD k^{(\rm II)} e^{ik^{(\rm II)}\frac{W}{2}}
\end{align}

前者の両辺に $i k^{(\rm II)}$ を掛け算した後に、前者と後者を足し引きすると、

\begin{align}
C_n &\ = \frac{A_n}{2i} e^{ik_n^{(\rm II)}\frac{W}{2}} \left\{i\sin \left[ k^{(\rm I)}_n \left(-\frac{W}{2} + \frac{L}{2} \right) \right] + \frac{k^{(\rm I)}_n}{k_n^{(\rm II)}} \cos \left[ k^{(\rm I)}_n \left(-\frac{W}{2} + \frac{L}{2} \right) \right] \right\} \\
&\ = \frac{A_n}{2i} e^{ik_n^{(\rm II)}\frac{W}{2}} \left\{ i\cos \left( \frac{\pi n}{2}\right) – \frac{k^{(\rm I)}_n}{k_n^{(\rm II)}} \sin \left( \frac{\pi n}{2}\right)\right\} \\
D_n &\ = \frac{A_n }{2i} e^{-ik_n^{(\rm II)}\frac{W}{2}} \left\{i\sin \left[ k^{(\rm I)}_n \left(-\frac{W}{2} + \frac{L}{2} \right) \right] – \frac{k^{(\rm I)}_n}{k_n^{(\rm II)}} \cos \left[ k^{(\rm I)}_n \left(-\frac{W}{2} + \frac{L}{2} \right) \right] \right\} \\
&\ = \frac{A_n}{2i} e^{-ik_n^{(\rm II)}\frac{W}{2}} \left\{ i\cos \left( \frac{\pi n}{2}\right) + \frac{k^{(\rm I)}_n}{k_n^{(\rm II)}} \sin \left( \frac{\pi n}{2}\right)\right\}
\end{align}

という風に $A_n$で表すことができるね。ちなみに、波数 $k^{(\rm II)}_n$ は離散化したエネルギーと直接関係があるね。

\begin{align}
k^{(\rm II)}_n = \frac{\sqrt{2m_e(E_n – V)}}{\hbar}
\end{align}

$k^{(\rm II)}_n = 0$ の場合

電子のエネルギーがちょうど壁のポテンシャルエネルギーと同じ場合、領域(II)の波数は $k^{(\rm II)}_n = 0$ となるね。その場合の扱いは別途行う必要があるね。

\begin{align}
A_n \cos \left( \frac{\pi n}{2}\right) &\ = C_n + D_n \\
-A_n k^{(\rm I)}_n \sin\left( \frac{\pi n}{2}\right) &\ = 0
\end{align}

となるね。

(4)$x= \frac{W}{2}$ の境界条件

最後に、領域(II)と領域(III)の2つの波動関数の境界条件を課してみよう!

\begin{align}
\varphi^{(\rm II)}_n (\frac{W}{2}) = \varphi^{(\rm III)}_n (\frac{W}{2}) \ &\ \longrightarrow \ C e^{ik^{(\rm II)}\frac{W}{2}} + D e^{-ik^{(\rm II)}\frac{W}{2}} = F_n \sin \left[ k^{(\rm III)}_n \left(\frac{W}{2} – \frac{L}{2} \right) \right] \\
\left.\frac{d\varphi^{(\rm II)}_n (x)}{d x}\right|_{x=\frac{W}{2}} = \left.\frac{d \varphi^{(\rm III)}_n (x)}{d x}\right|_{x=\frac{W}{2}} \ &\ \longrightarrow \ iC k^{(\rm II)} e^{ik^{(\rm II)}\frac{W}{2}} – iD k^{(\rm II)} e^{-ik^{(\rm II)}\frac{W}{2}} = F_n k^{(\rm III)}_n \cos \left[ k^{(\rm III)}_n \left(\frac{W}{2} – \frac{L}{2} \right) \right]
\end{align}

前者の両辺に $i k^{(\rm II)}$ を掛け算した後に、前者と後者を足し引きすると、

\begin{align}
C_n &\ = \frac{F_n}{2i} e^{-ik_n^{(\rm II)}\frac{W}{2}} \left\{-i\sin \left[ k^{(\rm III)}_n \left(-\frac{W}{2} + \frac{L}{2} \right) \right] + \frac{k^{(\rm III)}_n}{k_n^{(\rm II)}} \cos \left[ k^{(\rm III)}_n \left(-\frac{W}{2} + \frac{L}{2} \right) \right] \right\} \\
&\ = \frac{F_n}{2i} e^{-ik_n^{(\rm II)}\frac{W}{2}} \left\{ -i\cos \left( \frac{\pi n}{2}\right) – \frac{k^{(\rm III)}_n}{k_n^{(\rm II)}} \sin \left( \frac{\pi n}{2}\right)\right\} \\
D_n &\ = \frac{F_n }{2i} e^{ik_n^{(\rm II)}\frac{W}{2}} \left\{-i\sin \left[ k^{(\rm III)}_n \left(-\frac{W}{2} + \frac{L}{2} \right) \right] – \frac{k^{(\rm III)}_n}{k_n^{(\rm II)}} \cos \left[ k^{(\rm III)}_n \left(-\frac{W}{2} + \frac{L}{2} \right) \right] \right\} \\
&\ = \frac{F_n}{2i} e^{ik_n^{(\rm II)}\frac{W}{2}} \left\{ -i\cos \left( \frac{\pi n}{2}\right) + \frac{k^{(\rm III)}_n}{k_n^{(\rm II)}} \sin \left( \frac{\pi n}{2}\right)\right\}
\end{align}

という風に $F_n$で表すことができるね。

$k^{(\rm II)}_n = 0$ の場合

今回も電子のエネルギーがちょうど壁のポテンシャルエネルギーと同じになる場合の $k^{(\rm II)}_n = 0$ の扱いを別途行う必要があるね。

\begin{align}
– F_n \cos \left( \frac{\pi n}{2}\right) &\ = C_n + D_n \\
-F_n k^{(\rm III)}_n \sin\left( \frac{\pi n}{2}\right) &\ = 0
\end{align}

となるけれども、これだけでは $C_n$ と $D_n$ は決定できないね。

係数の関係を決定しよう!

今回、指数 $n$ によって係数の位相が異なるので、個別に計算する必要があるので、まずは $n=0$ の場合を計算してみるよ。$C_0, D_0$ と $A_0$ の関係は次のとおりだよ。

\begin{align}
C_0 &\ = \frac{A_0}{2} e^{ik^{(II)}_0 \frac{W}{2}} \\
D_0 &\ = \frac{A_0}{2} e^{-ik^{(II)}_0 \frac{W}{2}}
\end{align}

一方、$C_0, D_0$ と $F_0$ の関係は

\begin{align}
C_0 &\ = -\frac{F_0}{2} e^{-ik^{(II)}_0 \frac{W}{2}} \\
D_0 &\ = -\frac{F_0}{2} e^{ik^{(II)}_0 \frac{W}{2}}
\end{align}

となるけれども、先の結果と合わせて $F_0$ と $A_0$ の関係を求めると、考えると自明だけれども面白いことがわかるよ。$C_0$ を消去して得られる関係と、$D_0$ を消去して得られる関係はそれぞれ

\begin{align}
F_0 &\ = -A_0 e^{ik^{(II)}_0 W}\\
F_0 &\ = -A_0 e^{-ik^{(II)}_0 W}
\end{align}

となることから、なんと、$F_0$ と $A_0$ が0以外の解を持つには、

\begin{align}
k^{(II)}_0 W = 2\pi m \ \longrightarrow \ \frac{ \sqrt{2m_e (E_0 – V)} }{\hbar} W = 2\pi m
\end{align}

と、$V$ または $W$ に制限が加わることを意味するね($m = 0, 1, 2, \cdots$ )。これは「領域(II)の両端でうまく境界条件を満たすには、位相の変化分(波数×距離)が特定の条件を満たす必要がある」ことを意味しているね。よく考えれば自明だけれども、ちょっと意外だったね。次回は、この2重井戸の固有状態を可視化するよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(0)量子ドットに束縛された電子による1量子ビットの表現と1量子ビット万能量子ゲート


本シリーズは、右図のような量子ドットに束縛された電子の基底状態(固有関数:$\varphi_0(x)$、固有エネルギー:$E_0$)と第一励起状態(固有関数:$\varphi_1(x)$、固有エネルギー:$E_1$)の2準位を量子ビットとみなした計算機である、量子ドット量子コンピュータの動作をシミュレーションするよ。本稿では、この量子ドット型の量子ビットの表現と操作方法を解説するよ。

量子ドット型の量子ビットの表現

量子ドット型の量子ビットは、電子が基底状態に存在する状態励起状態に存在する状態が重なり合った状態で表現されるよ。時間依存性まで考慮すると具体的には

\begin{align}
\psi(x,t) = a_0(t) \varphi_0(x) + a_1(t) \varphi_1(x)
\end{align}

と表されるね。$a_0(t)$ と $a_1(t)$ は基底状態と励起状態の重ね合わせの度合いを表わす複素数で、$|a_0(t)|^2$ と $|a_1(t)|^2$ がそれぞれの状態に存在する確率を表すよ。 この $a_0(t)$ と $a_1(t)$ は基底状態と励起状態はエネルギーから決まる角振動数 $\omega_0$ と $\omega_1$ で

\begin{align}
a_0(t) = a_0 e^{-i\omega_0 t} \ , \ a_1(t) = a_1 e^{-i\omega_1 t}
\end{align}

という感じで単振動しているよ。ちなみに各準位の角振動数はエネルギーと $\omega_0 = E_0 / \hbar$、 $\omega_1 = E_1 / \hbar$ の関係があるよ。基底状態と励起状態の角振動数が異なるので、時間が経過するに連れて位相差(位相比?)が生じるね。後で解説するけれども、

\begin{align}
\psi(x,t) = e^{-i\omega_0 t} \left[ a_0 \varphi_0(x) + a_1\varphi_1(x)e^{-i\omega_{01} t} \right]
\end{align}

この位相差の重要になるよ($\omega_{01} \equiv \omega_{1}-\omega_{0} $)。上記の量子ビットの表記は、量子ドットの固有関数を用いているけれども、量子ビットそのものは様々な系で実現することができるので、一般的にはブラ・ケット表記を用いて、2つの量子状態を $| 0 \rangle , | 1 \rangle$ と抽象的に表現するね。これに倣えば、

\begin{align}
| \psi(t) \rangle = a_0 (t) | 0 \rangle + a_1 (t) | 1 \rangle
\end{align}

と表されるね。今後、量子ビットを表す場合にはこちらの表記を用いるよ。ちなみに、この $| 0 \rangle, | 1 \rangle$ と $\varphi_0(x), \varphi_1(x)$ とは $ \varphi_0(x) = \langle x | 0 \rangle , \varphi_1(x) = \langle x | 1 \rangle$ という関係があるよ。

1量子ビットの基本量子ゲート

量子ビットを制御するための操作は量子ゲートと呼ばれるよ。この量子ゲートは、量子力学的には量子状態に対してユニタリー変換を施すことに対応するよ。このユニタリ変換は、固有状態を縦ベクトルで表現したときに正方行列で表すことができるよ。$|0 \rangle$ と $|1 \rangle$ を要素数2個の縦ベクトル

\begin{align}
| 0 \rangle = \left( \matrix{ 1 \cr 0} \right) \ , \ | 1 \rangle = \left( \matrix{ 0 \cr 1} \right)
\end{align}

で表わすと、1量子ビットは

\begin{align}
| \psi \rangle = a_0 | 0 \rangle + a_1 | 1 \rangle = a_0 \left( \matrix{ 1 \cr 0} \right) + a_1 \left( \matrix{ 0 \cr 1} \right) = \left( \matrix{ a_0 \cr a_1} \right)
\end{align}

と表すことができて、ユニタリー変換はユニタリー行列と呼ばれる2×2の行列で表現ことができるよ。量子ゲートを表すユニタリー行列の例は次のとおりだよ。

恒等ゲート $I$

恒等ゲート $I$ は、入力状態と出力状態が同じとなる量子ゲートで、行列は単位行列で表されるよ。

\begin{align}
I = \left( \matrix{ 1 & 0 \cr 0 & 1} \right)
\end{align}

もちろん、量子ゲート通過後の状態 $| \psi’ \rangle$ は、通過前の状態 $| \psi \rangle$ と一致するよ。

\begin{align}
\left( \matrix{ a_0′ \cr a_1′} \right) = \left( \matrix{ 1 & 0 \cr 0 & 1} \right) \left( \matrix{ a_0 \cr a_1} \right)= \left( \matrix{ a_0 \cr a_1} \right)
\end{align}

否定ゲート $X$

否定ゲート $X$ は、量子ビットの状態を反転させる量子ゲートで、行列は次のように表されるよ。

\begin{align}
X = \left( \matrix{ 0 & 1 \cr 1 & 0} \right)
\end{align}

次の計算でわかる通り、量子ゲートを通過すると行列要素が反転していることが分かるね。

\begin{align}
\left( \matrix{ a_0′ \cr a_1′} \right) = \left( \matrix{ 0 & 1 \cr 1 & 0} \right)\left( \matrix{ a_0 \cr a_1} \right) = \left( \matrix{ a_1 \cr a_0} \right)
\end{align}

この量子ゲートは、外部から特定の振動数の電磁波を特定時間与えることで生じるエネルギー準位間の遷移で実現することができるよ。

位相シフトゲート $P_{\theta}$

位相シフトゲート $P_{\theta}$ は、量子ビットの2つの状態の相対的な位相をずらす量子ゲートで、行列は次のように表されるよ。

\begin{align}
P_{\theta} = \left( \matrix{ 1 & 0 \cr 0 & e^{i\theta}} \right)
\end{align}

次の計算でわかる通り、量子ゲートを通過すると $a_1$ に位相因子 $e^{i\theta}$ が掛かるよ。

\begin{align}
\left( \matrix{ a_0′ \cr a_1′} \right) = \left( \matrix{ 1 & 0 \cr 0 & e^{i\theta}} \right) \left( \matrix{ a_0 \cr a_1} \right) =
\left( \matrix{ a_0 \cr a_1e^{i\theta}} \right)
\end{align}

この量子ゲートは、先に示したとおり、異なるエネルギー状態で振動数が違うことを考慮すると、特定時間だけ放っておくことで実現することができるよ。

アダマールゲート $H$

アダマールゲート $H$ は、量子ビットの回転を表す量子ゲートで、行列は次のように表されるよ。

\begin{align}
H = \frac{1}{\sqrt{2}} \left( \matrix{ 1 & 1 \cr 1 & -1 }\right)
\end{align}

次の計算でわかる通り、量子ゲートを通過すると、等しい重みで混合されるよ。$H^2 = I$ となるので、アダマールゲートは2回通すと元にもどるね。

\begin{align}
\left( \matrix{ a_0′ \cr a_1′} \right) = \frac{1}{\sqrt{2}} \left( \matrix{ 1 & 1 \cr 1 & -1 }\right) \left( \matrix{ a_0 \cr a_1} \right) =\frac{1}{\sqrt{2}} \left( \matrix{ a_0 + a_1 \cr a_0 – a_1} \right)
\end{align}

このゲートの重要性を示す一例として、入力状態が $a_0 = 1 , a_1 =0$ (100% $| 0 \rangle$ 状態 )とすると、

\begin{align}
\left( \matrix{ a_0′ \cr a_1′} \right) = \frac{1}{\sqrt{2}} \left( \matrix{ 1 & 1 \cr 1 & -1 }\right) \left( \matrix{
1 \cr 0} \right) =\frac{1}{\sqrt{2}} \left( \matrix{ 1 \cr 1} \right)
\end{align}

となり、均等に混合した状態($| 0 \rangle$ と $| 1 \rangle$ が50%ずつの状態 )を作り出すことができるね。
なお、この量子ゲートも外部からの特定の振動数の電磁波を特定時間与えることで生じるエネルギー準位間の遷移で実現することができるよ。

1量子ビットの万能量子ゲート

まず、任意の1量子ビットの状態は

\begin{align}
| \psi \rangle = e^{i\gamma } \left[ \cos\frac{\theta}{2} | 0 \rangle + \sin\frac{\theta}{2} e^{i\phi} | 1 \rangle \right]
\end{align}

で表されることが知られているよ($ 0 \leq \theta \leq \pi \ , \ 0 \leq \phi \leq 2\pi $)。ただし、全体に掛かる因子 $e^{i\gamma}$ は観測には掛からないので無視できるので、

\begin{align}
| \psi \rangle = \cos\frac{\theta}{2} | 0 \rangle + \sin\frac{\theta}{2} e^{i\phi} | 1 \rangle
\end{align}

ですべての状態を表しているよ。この状態を生み出すことのできる量子ゲートは「1量子ビットの万能量子ゲート」と呼ばれるよ。このゲートはアダマールゲート $H$ と 位相シフトゲート $P_{\theta}$ の2つを組み合わせることで作ることができるよ。例えば、初期状態として $ | \psi \rangle =| 0 \rangle $ から任意の状態を生成するには、

\begin{align}
U = P_{\phi+\frac{\pi}{2}} H P_{\theta} H
\end{align}

という演算で実現することができるよ。実際に確かめてみよう。

\begin{align}
| \psi’ \rangle &\ = P_{\phi+\frac{\pi}{2}} H P_{\theta} H | 0 \rangle = P_{\phi+\frac{\pi}{2}} H P_{\theta} \frac{ | 0 \rangle + | 1 \rangle }{\sqrt{2}} = P_{\phi+\frac{\pi}{2}} H \frac{ | 0 \rangle + e^{i\theta}| 1 \rangle }{\sqrt{2}}\\
&\ = P_{\phi+\frac{\pi}{2}} \frac{ (1+e^{i\theta})| 0 \rangle + (1-e^{i\theta})| 1 \rangle }{2} = \frac{ (1+e^{i\theta})| 0 \rangle + (1-e^{i\theta}) e^{i\phi+i\frac{\pi}{2}}| 1 \rangle }{2}\\
&\ = e^{i\frac{\theta}{2}} \frac{ (e^{-i\frac{\theta}{2}}+e^{i\frac{\theta}{2}})| 0 \rangle + i(e^{-i\frac{\theta}{2}}-e^{i\frac{\theta}{2}}) e^{i\phi}| 1 \rangle }{2} \\
&\ = e^{i\frac{\theta}{2}}\left[ \cos\frac{\theta}{2} | 0 \rangle+ \sin\frac{\theta}{2} e^{i\phi}| 1 \rangle \right]
\end{align}

ちゃんとなってるね。以上で1量子ビットについての解説は終わりだよ。まだ1量子ビットなのでこれ単体ではコンピュータとして何の演算もできないね。2量子ビットについての解説は、1量子ビットの物理的操作方法をマスターした後に改めて解説するよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(6)量子ドットに束縛された電子に静電場+電磁波を加えたときの状態遷移の計算結果(シュタルク効果+ラビ振動)

まず、次の図は量子ドットに束縛された電子に $E_x = 2\times10^{6}[{rm eV}]$ の大きさの静電場を加えてることで変化した基底状態と励起状態だよ。基底状態は電場の向きの反対側に分布が偏って、励起状態は反対に電場の向きと同じ方向に分布が偏っているね。これは電気双極子が生じていると考えられるね。基底状態と励起状態の電気双極子はそれぞれ $\boldsymbol{p}_0 = -2e \langle \tilde0|x |\tilde0\rangle >0$ と $\boldsymbol{p}_1 = -2e \langle \tilde1|x |\tilde1\rangle< 0 $ となるよ。これらの電気双極子と静電場との相互作用によって、静電エネルギーは $ \Delta U = \boldsymbol{p} \cdot \boldsymbol{E} $ だけ変化するよ。さらに、この電気双極子によって生じる電場によって、外部から基底状態と励起状態のどちらの準位に存在するか測定することができるね。

次に、この2準位間のエネルギー差($\Delta E = 0.01267 [{\rm eV}]$)に対応する光子エネルギーの電磁波(振動数:$f = 3.062 [{\rm THz}] $、波長:$\lambda = 97.90 [{\rm \mu m}] $)を入射して、2準位間のラビ振動をシミュレーションした結果を示すよ。想定通り、2準位間をsin関数的に遷移する様子が確認できたね。


【量子コンピュータを作ろう!】(5)量子ドットに束縛された電子に静電場+電磁波を加えたときのハミルトニアンと計算方法(シュタルク効果+ラビ振動)

量子ドットに束縛された電子に静電場を加えてることで変化した基底状態と第一励起状態に対して、外部から電磁波を与えて状態遷移の時間発展させることを考えるよ。静電場を加え無い場合と同様にラビ振動するはずだけれども、ちゃんとシミュレーションできるかどうかを確かめるよ。この場合のハミルトニアンは次のとおりだね。

\begin{align}
\hat{H} = -\frac{\hbar^2}{2m_e} \frac{d^2}{dx^2} + e E_x x + \frac{e}{m_e} \boldsymbol{A}\cdot \hat{\boldsymbol{p}}
\end{align}

静磁場を加えたときの固有状態は数値的はすでに解けているので、そのハミルトニアンを $\hat{H}_{\rm Field}$ と表して、その固有関数を $\tilde{\varphi}_n(x)$、固有エネルギーを $\tilde{E}_n$ と表すと、次の固有方程式

\begin{align}
\hat{H}_{\rm Field} \tilde{\varphi}_n(x) = \tilde{E}_n\tilde{\varphi}_n(x)
\end{align}

を満たすね。ちなみに固有状態を明示的に表しておくと
\begin{align}
\tilde{\varphi}_n(x) = \sum\limits_{n’=0} a^{(n)}_{n’}\varphi_{n’}(x) = \sqrt{\frac{2}{L}} \sum\limits_{n’=0} a^{(n)}_{n’} \sin\left[ k_n (x + \frac{L}{2}) \right] \ , \ k_n = \frac{\pi(n+1)}{L}
\end{align}

となって、この $a^{(n)}_{n’}$ が既知であるという意味だよ。このハミルトニアン $\hat{H}_{\rm Field}$ を用いて、元のハミルトニアンは

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_{\rm Field} + \frac{e}{m_e} \boldsymbol{A}\cdot \hat{\boldsymbol{p}}
\end{align}

と表すことができて、$\tilde{E}_n$ と $\tilde{\varphi}_n(x)$ はすでに既知なので、前回と同様にラビ振動をシミュレーションできそうだね。今回も1次元系で考えているので、ベクトルポテンシャルを $\boldsymbol{A}(t) = (A_x(t), 0, 0)$ として、

\begin{align}
A_x(t) = A_0 \cos(kx-\omega t)
\end{align}

と考えるよ。そして、電磁波を入射するときの波動関数を

\begin{align}
\tilde{\psi}(x, t) = \sum\limits_{n=0} \tilde{a}_n(t) \tilde{\varphi}_n(x)
\end{align}

という感じに、展開してその係数の値が時間に依存すると考えるよ。これを時間依存を考慮したシュレーディンガー方程式

\begin{align}
i \hbar \frac{\partial }{\partial t} \tilde{\psi}(x, t) = \hat{H} \tilde{\psi}(x, t)
\end{align}

に代入して、両辺に $\tilde{\varphi}^*_m(x)$ を掛けて全空間で積分するよ。すると、$\tilde{a}_m(t)$ に関する連立常微分方程式が得られるね。

\begin{align}
i \hbar \frac{d \tilde{a}_m(t)}{d t} = E^{(0)}_m \tilde{a}_m(t) + \sum\limits_{n=0} \langle \tilde{m} | \hat{V}(t) | \tilde{n} \rangle \tilde{a}_n(t)
\end{align}

$\langle \tilde{m} | \hat{V}(t) | \tilde{n} \rangle$ は、

\begin{align}
\langle \tilde{m} | \hat{V}(t) | \tilde{n} \rangle \equiv \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \tilde{\varphi}^*_m(x) \hat{V}(t)
\tilde{\varphi}_n(x)\, dx = \sum\limits_{n’, m’=0} a^{(m)*}_{m’} a^{(n)}_{n’} \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \varphi^*_{m’}(x) \hat{V}(t)
\varphi_{n’}(x)\, dx = \sum\limits_{n’, m’=0} a^{(m)*}_{m’} a^{(n)}_{n’} \langle m’ | \hat{V}(t) | n’ \rangle
\end{align}

となって、静電場が無い場合の固有関数の積分の和で表すことができるね。$\hat{p}_x/m_e = [\hat{H}_0, x ]/i\hbar$ を考慮すると

\begin{align}
\langle m’ | \hat{V}(t) | n’ \rangle = \frac{1}{L}\int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \varphi^*_{m’}(x) \hat{V}(t)
\varphi_{n’}(x)\, dx = \frac{eA_0}{m_e} \langle m’ | \cos(kx-\omega t) p_x | n’ \rangle = \frac{eA_0}{i\hbar} \langle m’ | \cos(kx-\omega t) [\hat{H}_0, x ] | n’ \rangle
\end{align}

と変形できて、今回も波長が量子ドットのサイズよりも十分大きいと仮定すると、$kx \simeq 0$ と近似することができるので

\begin{align}
\langle m’ | \hat{V}(t) | n’ \rangle = \frac{eA_0}{i\hbar} \cos(\omega t) \left[ E^{(0)}_{m’} – E^{(0)}_{n’} \right] \langle m’ |
x | n’ \rangle
\end{align}

となるので、最終的に $\langle \tilde{m} | \hat{V}(t) | \tilde{n} \rangle$ は

\begin{align}
\langle \tilde{m} | \hat{V}(t) | \tilde{n} \rangle = \frac{eA_0}{i\hbar} \cos(\omega t) \sum\limits_{n’, m’=0} a^{(m)*}_{m’} a^{(n)}_{n’} \left[ E^{(0)}_{m’} – E^{(0)}_{n’} \right] \langle m’ | x | n’ \rangle = \frac{eA_0}{i\hbar} \cos(\omega t) K_{mn}
\end{align}

となるね。$K_{mn}$ は一度計算するれば良いので、これを用いて、展開係数$\tilde{a}_m(t)$ に関する連立常微分方程式は

\begin{align}
i \hbar \frac{d \tilde{a}_m(t)}{d t} = \tilde{E}_m \tilde{a}_m(t) + \frac{eA_0}{i\hbar} \cos(\omega t)\sum\limits_{n=0} K_{mn} a_n(t)
\end{align}

となるね。この $\tilde{E}_m, K_{mn}$ はあらかじめ計算することができるね。電磁波の角振動数が2準位間のエネルギー差 $\Delta E = \tilde{E}_1 – \tilde{E}_0$ と表して $\omega = \Delta E / \hbar$ となるときに、2準位間を周期的に遷移するね。次回はこれをシミュレーションするよ。