【量子コンピュータを作ろう!】(5)量子ドットに束縛された電子に静電場+電磁波を加えたときのハミルトニアンと計算方法(シュタルク効果+ラビ振動)

量子ドットに束縛された電子に静電場を加えてることで変化した基底状態と第一励起状態に対して、外部から電磁波を与えて状態遷移の時間発展させることを考えるよ。静電場を加え無い場合と同様にラビ振動するはずだけれども、ちゃんとシミュレーションできるかどうかを確かめるよ。この場合のハミルトニアンは次のとおりだね。

\begin{align}
\hat{H} = -\frac{\hbar^2}{2m_e} \frac{d^2}{dx^2} + e E_x x + \frac{e}{m_e} \boldsymbol{A}\cdot \hat{\boldsymbol{p}}
\end{align}

静磁場を加えたときの固有状態は数値的はすでに解けているので、そのハミルトニアンを $\hat{H}_{\rm Field}$ と表して、その固有関数を $\tilde{\varphi}_n(x)$、固有エネルギーを $\tilde{E}_n$ と表すと、次の固有方程式

\begin{align}
\hat{H}_{\rm Field} \tilde{\varphi}_n(x) = \tilde{E}_n\tilde{\varphi}_n(x)
\end{align}

を満たすね。ちなみに固有状態を明示的に表しておくと
\begin{align}
\tilde{\varphi}_n(x) = \sum\limits_{n’=0} a^{(n)}_{n’}\varphi_{n’}(x) = \sqrt{\frac{2}{L}} \sum\limits_{n’=0} a^{(n)}_{n’} \sin\left[ k_n (x + \frac{L}{2}) \right] \ , \ k_n = \frac{\pi(n+1)}{L}
\end{align}

となって、この $a^{(n)}_{n’}$ が既知であるという意味だよ。このハミルトニアン $\hat{H}_{\rm Field}$ を用いて、元のハミルトニアンは

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_{\rm Field} + \frac{e}{m_e} \boldsymbol{A}\cdot \hat{\boldsymbol{p}}
\end{align}

と表すことができて、$\tilde{E}_n$ と $\tilde{\varphi}_n(x)$ はすでに既知なので、前回と同様にラビ振動をシミュレーションできそうだね。今回も1次元系で考えているので、ベクトルポテンシャルを $\boldsymbol{A}(t) = (A_x(t), 0, 0)$ として、

\begin{align}
A_x(t) = A_0 \cos(kx-\omega t)
\end{align}

と考えるよ。そして、電磁波を入射するときの波動関数を

\begin{align}
\tilde{\psi}(x, t) = \sum\limits_{n=0} \tilde{a}_n(t) \tilde{\varphi}_n(x)
\end{align}

という感じに、展開してその係数の値が時間に依存すると考えるよ。これを時間依存を考慮したシュレーディンガー方程式

\begin{align}
i \hbar \frac{\partial }{\partial t} \tilde{\psi}(x, t) = \hat{H} \tilde{\psi}(x, t)
\end{align}

に代入して、両辺に $\tilde{\varphi}^*_m(x)$ を掛けて全空間で積分するよ。すると、$\tilde{a}_m(t)$ に関する連立常微分方程式が得られるね。

\begin{align}
i \hbar \frac{d \tilde{a}_m(t)}{d t} = E^{(0)}_m \tilde{a}_m(t) + \sum\limits_{n=0} \langle \tilde{m} | \hat{V}(t) | \tilde{n} \rangle \tilde{a}_n(t)
\end{align}

$\langle \tilde{m} | \hat{V}(t) | \tilde{n} \rangle$ は、

\begin{align}
\langle \tilde{m} | \hat{V}(t) | \tilde{n} \rangle \equiv \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \tilde{\varphi}^*_m(x) \hat{V}(t)
\tilde{\varphi}_n(x)\, dx = \sum\limits_{n’, m’=0} a^{(m)*}_{m’} a^{(n)}_{n’} \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \varphi^*_{m’}(x) \hat{V}(t)
\varphi_{n’}(x)\, dx = \sum\limits_{n’, m’=0} a^{(m)*}_{m’} a^{(n)}_{n’} \langle m’ | \hat{V}(t) | n’ \rangle
\end{align}

となって、静電場が無い場合の固有関数の積分の和で表すことができるね。$\hat{p}_x/m_e = [\hat{H}_0, x ]/i\hbar$ を考慮すると

\begin{align}
\langle m’ | \hat{V}(t) | n’ \rangle = \frac{1}{L}\int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \varphi^*_{m’}(x) \hat{V}(t)
\varphi_{n’}(x)\, dx = \frac{eA_0}{m_e} \langle m’ | \cos(kx-\omega t) p_x | n’ \rangle = \frac{eA_0}{i\hbar} \langle m’ | \cos(kx-\omega t) [\hat{H}_0, x ] | n’ \rangle
\end{align}

と変形できて、今回も波長が量子ドットのサイズよりも十分大きいと仮定すると、$kx \simeq 0$ と近似することができるので

\begin{align}
\langle m’ | \hat{V}(t) | n’ \rangle = \frac{eA_0}{i\hbar} \cos(\omega t) \left[ E^{(0)}_{m’} – E^{(0)}_{n’} \right] \langle m’ |
x | n’ \rangle
\end{align}

となるので、最終的に $\langle \tilde{m} | \hat{V}(t) | \tilde{n} \rangle$ は

\begin{align}
\langle \tilde{m} | \hat{V}(t) | \tilde{n} \rangle = \frac{eA_0}{i\hbar} \cos(\omega t) \sum\limits_{n’, m’=0} a^{(m)*}_{m’} a^{(n)}_{n’} \left[ E^{(0)}_{m’} – E^{(0)}_{n’} \right] \langle m’ | x | n’ \rangle = \frac{eA_0}{i\hbar} \cos(\omega t) K_{mn}
\end{align}

となるね。$K_{mn}$ は一度計算するれば良いので、これを用いて、展開係数$\tilde{a}_m(t)$ に関する連立常微分方程式は

\begin{align}
i \hbar \frac{d \tilde{a}_m(t)}{d t} = \tilde{E}_m \tilde{a}_m(t) + \frac{eA_0}{i\hbar} \cos(\omega t)\sum\limits_{n=0} K_{mn} a_n(t)
\end{align}

となるね。この $\tilde{E}_m, K_{mn}$ はあらかじめ計算することができるね。電磁波の角振動数が2準位間のエネルギー差 $\Delta E = \tilde{E}_1 – \tilde{E}_0$ と表して $\omega = \Delta E / \hbar$ となるときに、2準位間を周期的に遷移するね。次回はこれをシミュレーションするよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(4)量子ドットに束縛された電子に電磁波を加えたときの状態遷移の計算結果(ラビ振動)

前回、定式化した量子ドットに束縛された電子に電磁波を加えたときの計算結果を示すよ。量子井戸の横幅は $L = 10 \times 10^9 [{\rm m}]$( $=10[{\rm nn}]$ )としているよ。 次の図は、基底状態100%の初期状態の電子に、第一励起状態と基底状態のエネルギー差の電磁波を入射したときの時間依存性だよ。想定通り、ラビ振動として知られる2つの準位間をsin関数的に振動する様子がわかるね。

基底状態100%から励起状態100%まで遷移する時間間隔の電磁波パルスは、πパルスと呼ばれるよ。量子コンピュータの量子ビットを入れ替えるのに利用されるね。次回は、静電場を加えた電子に対して、ラビ振動をちゃんと起こせるかをチェックするよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(3)量子ドットに束縛された電子に電磁波を加えたときのハミルトニアンと計算方法(ラビ振動)

今度は静電場の代わりに、量子ドットに束縛された電子に電磁波(直線偏光)を外部から与えて、基底状態と第一励起状態との間のラビ振動を確認するよ。電磁波を表すベクトルポテンシャルを $\boldsymbol{A}$ とした場合のハミルトニアンは次のとおりだね(参考)。

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_0 + \hat{V}(t) = -\frac{\hbar^2}{2m_e} \frac{d^2}{dx^2} + \frac{e}{m_e} \boldsymbol{A}\cdot \hat{\boldsymbol{p}}
\end{align}

今回は1次元系で考えているので、ベクトルポテンシャルを $\boldsymbol{A}(t) = (A_x(t), 0, 0)$ として、

\begin{align}
A_x(t) = A_0 \cos(kx-\omega t)
\end{align}

と考えるよ。そして、このハミルトニアンの固有関数を外場が無いときの固有関数

\begin{align}
\varphi_n(x) = \sqrt{\frac{2}{L}} \sin\left[ k_n (x + \frac{L}{2}) \right] \ , \ E_n = \frac{\hbar^2 k_n^2}{2m_e} \ , \
k_n = \frac{\pi(n+1)}{L}
\end{align}

で展開して、その係数の値が時間に依存するとして展開するよ。

\begin{align}
\psi(x, t) = \sum\limits_{n=0} a_n(t) \varphi_n(x)
\end{align}

これを時間依存を考慮したシュレーディンガー方程式

\begin{align}
i \hbar \frac{\partial }{\partial t} \psi(x, t) = \hat{H} \psi(x, t)
\end{align}

に代入して、両辺に $\varphi^*_m(x)$ を掛けて全空間で積分するよ。すると、$a_m(t)$ に関する連立常微分方程式が得られるね。

\begin{align}
i \hbar \frac{d a_m(t)}{d t} = E^{(0)}_m a_m(t) + \sum\limits_{n=0} \langle m | \hat{V}(t) | n \rangle a_n(t)
\end{align}

$\langle m | \hat{V}(t) | n \rangle$ は、$\hat{p}_x/m_e = [\hat{H}_0, x ]/i\hbar$ を考慮すると

\begin{align}
\langle m | \hat{V}(t) | n \rangle \equiv \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \varphi^*_m(x) \hat{V}(t)
\varphi_n(x)\, dx = \frac{eA_0}{m_e} \langle m | \cos(kx-\omega t) p_x | n \rangle = \frac{eA_0}{i\hbar} \langle m | \cos(kx-\omega t) [\hat{H}_0, x ] | n \rangle
\end{align}

と変形できて、波長が量子ドットのサイズよりも十分大きいと仮定すると、$kx \simeq 0$ と近似することができるので

\begin{align}
\langle m | \hat{V}(t) | n \rangle = \frac{eA_0}{i\hbar} \cos(\omega t) \left[ E^{(0)}_m – E^{(0)}_n \right] \langle m |
x | n \rangle
\end{align}

となるので、$a_m(t)$ に関する連立常微分方程式は

\begin{align}
i \hbar \frac{d a_m(t)}{d t} = E^{(0)}_m a_m(t) + \frac{eA_0}{i\hbar} \cos(\omega t)\sum\limits_{n=0} \left[ E^{(0)}_m – E^{(0)}_n \right] \langle m | x | n \rangle a_n(t)
\end{align}

となるね。$\langle m |x | n \rangle $ は時間に依存しないので、一度計算するだけでいいね。電磁波の角振動数が2準位間のエネルギー差 $\Delta E$ と表して $\omega = \Delta E / \hbar$ となるときに、2準位間を周期的に遷移するね。次回はこれをシミュレーションするよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(2)量子ドットに束縛された電子に静電場を加えたときの固有状態の計算結果(シュタルク効果)

前回、定式化した量子ドットに束縛された電子に静電場を加えたときの固有状態の計算結果を示すよ。量子井戸の横幅は $L = 10 \times 10^9 [{\rm m}]$( $=10[{\rm nn}]$ )としているよ。

基底状態と第一励起状態の固有エネルギーの静電場の強度依存性

次のグラフは基底状態と第一励起状態の固有エネルギーの静電場の強度依存性だよ。基底状態は電場強度が強くなるにつれてエネルギーが下がっているのに対して、第一励起状態は電場強度が強くなるにつれて初めエネルギーが上がっていった後に下がって行く様子がわかるね。その分岐点となる電場強度はおおよそ $E_x = 5.0\times 10^6 [{\rm V/m}]$ であることがわかるね。静電場が加わることでエネルギーが上下する理由は電気双極子が誘起されていることを意味しているよ。エネルギーが下がるのは電気双極子モーメントが静電場の向きと平行となり、反対に上がるのは電気双極子モーメントが静電場の向きと反平行となっていると考えられるね。

基底状態と第一励起状態の固有関数の静電場強度別の空間依存性

次のグラフは基底状態の固有関数の静電場強度別の空間依存性だよ($E_x = 0.0\times 10^6 \sim 1.0\times 10^6 [{\rm V/m}]$)。静電場が強くなるほど電子の分布がx軸の正方向に偏っていくね。つまり、電気双極子モーメントが大きくなっていることに対応しているよ。

次のグラフは第一励起状態の固有関数の静電場強度別の空間依存性だよ($E_x = 0.0\times 10^6 \sim 10.0\times 10^6 [{\rm V/m}]$)。第一励起状態はエネルギー準位の電場強度依存性からも分かる通り、$E_x = 5.0\times 10^6 [{\rm V/m}]$ までは、電場強度に応じて電子分布はx軸の負方向に偏っていくね。それよりも大きな電場を加えると、反対にx軸の正方向に偏っていくね。

以上の結果より、外部から静電場を加えることで、基底状態と第一励起状態は異なる向きの電気双極子モーメントが誘起されることがわかったね(シュタルク効果)。これを利用することで、基底状態と第一励起状態の区別をつけることができるよ。次回は、この基底状態と第一励起状態を入れ替えるラビ振動を確かめるよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(1)量子ドットに束縛された電子に静電場を加えたときのハミルトニアンと計算方法(シュタルク効果)


 量子コンピュータを勉強のために、シミュレーションが一番簡単そうな量子ドットに束縛された電子のエネルギー準位を量子ビットとして扱うタイプを念頭に置いて、量子コンピュータを実現するために必要な素子の具体的な物理系のシミュレーション(数値実験)を行っていくよ。今回は、1次元版量子ドット(井戸型ポテンシャル)に束縛された電子の状態を変化させるために静電場を加えたときの固有状態を調べるよ。

静電場を加えたハミルトニアンとシュレディンガー方程式

井戸型ポテンシャルに束縛された電子に外部からx軸方向の静電場 $E_x$ を加えると、電子は静電場によって空間分布が変化することが考えられるね。量子井戸の底のポテンシャルエネルギーを0としたときのハミルトニアンは次のとおりだね。

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_0 + \hat{V} = -\frac{\hbar^2}{2m_e} \frac{d^2}{dx^2} – e E_x x \\
\end{align}

$\hat{V}$ は静電場によるポテンシャルエネルギーだよ。$\hat{H}_0$ は 外場無し($E_x = 0$)のときのハミルトニアンで、井戸の深さが無限大のときには固有関数 $\varphi_n(x)$ を用いて、エネルギー固有状態 $\hat{H}_0 \varphi_n(x) = E_n \varphi_n(x)$ を満たすよ。固有関数と固有エネルギーは

\begin{align}
\varphi_n(x) = \sqrt{\frac{2}{L}} \sin\left[ k_n (x + \frac{L}{2}) \right] \ , \ E_n = \frac{\hbar^2 k_n^2}{2m_e} \ , \ k_n = \frac{\pi(n+1)}{L}
\end{align}

だね。$k_n$ は波数だよ。静磁場が加わったときの固有関数と固有エネルギーをそれぞれ $\varphi(x)$ と $E$ と表したとき、シュレディンガー方程式は

\begin{align}
\hat{H} \varphi(x)= E \varphi(x) \\
\end{align}

となるけれど、この $\varphi(x)$ を $\varphi_n(x)$ を用いて

\begin{align}
\varphi(x) = \sum\limits_{n=0} a_n \varphi_n(x)
\end{align}

と展開して、固有関数と固有エネルギーを計算するよ。

固有関数と固有エネルギーの計算方法

シュレディンガー方程式の両辺に $\varphi^*_m(x)$ を掛けて全空間で積分するよ。固有関数の直交関係を考慮すると、シュレディンガー方程式は

\begin{align}
E^{(0)}_m a_m + \sum\limits_{n=0} \langle m | \hat{V} | n \rangle a_n = E a_m
\end{align}

という展開係数 $ a_n $ に関する連立方程式になるね。ただし、$\langle m | \hat{V} | n \rangle $ は

\begin{align}
\langle m | \hat{V} | n \rangle \equiv \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \varphi^*_m(x) \hat{V} \varphi_n(x)\, dx
\end{align}

だよ。連立方程式は行列で表すとわかりやすくなるので、エネルギーの小さい順に固有関数の係数を並べると次のようになるよ。

\begin{align}
\left(\matrix{ E^{(0)}_0 +\langle 0 | \hat{V} | 0 \rangle & \langle 1 | \hat{V} | 0 \rangle & \langle 2 | \hat{V} | 0 \rangle & \langle 3 | \hat{V} | 0 \rangle & \langle 4 | \hat{V} | 0 \rangle & \cdots \cr
\langle 0 | \hat{V} | 1 \rangle & E^{(0)}_1 + \langle 1 | \hat{V} | 1 \rangle & \langle 1 | \hat{V} | 2 \rangle & \langle 1 | \hat{V} | 3 \rangle &\langle 1 | \hat{V} | 4 \rangle &\cdots \cr
\langle 0 | \hat{V} | 2 \rangle & \langle 1 | \hat{V} | 2 \rangle & E^{(0)}_2 + \langle 2 | \hat{V} | 2 \rangle & \langle 3 | \hat{V} | 2 \rangle& \langle 4 | \hat{V} | 2 \rangle& \cdots \cr
\langle 0 | \hat{V} | 3 \rangle & \langle 1 | \hat{V} | 3 \rangle & \langle 2 | \hat{V} | 3 \rangle & E^{(0)}_3 + \langle 3 | \hat{V} | 3 \rangle& \langle 4 | \hat{V} | 3 \rangle& \cdots \cr
\langle 0 | \hat{V} | 4 \rangle & \langle 1 | \hat{V} | 4 \rangle & \langle 2 | \hat{V} | 4 \rangle & \langle 3 | \hat{V} | 4 \rangle& E^{(0)}_4 + \langle 4 | \hat{V} | 4 \rangle& \cdots \cr
\vdots & \vdots & \vdots & \vdots & \vdots & \ddots } \right) \left(\matrix{ a_{0} \cr a_{1}\cr a_{2} \cr a_{3} \cr a_{4} \cr \vdots }\right) = E \left(\matrix{ a_{0} \cr a_{1}\cr a_{2} \cr a_{3} \cr a_{4} \cr \vdots }\right)
\end{align}

まさに行列表した固有値方程式の形になっているのがわかるね。 これで固有値と固有ベクトルを計算すると、固有値はそのまま外場が加えられた場合のエネルギー、固有ベクトルがそのまま展開係数の値そのものになるね。次回は、この計算結果を示すよ。


水素原子の外場による光電効果の計算結果

この前導出した水素原子の外場による光電効果の計算方法に基づいて計算した結果を示すよ。入射した電磁場の波長は $ \lambda = 10\, a_B $ ( $a_B$ はボーア半径、 $ E= E = 2343[{\rm eV}] $)。長さ $L$ の箱内で定義される平面波で展開したせいか、飛び出したはずの電子が、外場の影響を受けてまた基底状態に戻るっていう結果になってしまったよ。考えてみれば、これはラビ振動と全く同じ物理的な状況だね。

\[\begin{align}
i
\end{align}\tag{10}\]

水素分子の固有状態の数値計算方法(失敗2)


前回、水素分子の固有状態の数値計算方法を示そうとしたけれども、展開する直交関数系を全く考慮していなかったために、異なる量子数で直交しないために固有値方程式を導出することができなかったね。今回は、水素分子イオンを構成する2つの原子核の重心位置( $\boldsymbol{R}_0$ )を基準とした水素様原子($Z=2$)の固有関数系で展開する方法で考えてみるよ。

\begin{align}
\psi(\boldsymbol{r}) = \sum\limits_{nlm} a_{nlm} \varphi_{nlm}^{(Z)}(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{R}_0)
\end{align}

この固有関数に合わせて、ハミルトニアンを次のように変形するよ。

\begin{align}
\hat{H} &\ = \left[ -\frac{\hbar^2}{2m_e} \nabla^2 – \frac{Ze^2}{4\pi \epsilon_0 | \boldsymbol{r} -\boldsymbol{R}_0|} \right] + \left[ \frac{Ze^2}{4\pi \epsilon_0 | \boldsymbol{r} -\boldsymbol{R}_0|} – \frac{e^2}{4\pi \epsilon_0 | \boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_A|} – \frac{e^2}{4\pi \epsilon_0 | \boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_B|} \right] \\\\
&\ = \hat{H}_0^{(Z)} + V(\boldsymbol{r})
\end{align}

このように変形することで、$ \hat{H}_0 \varphi_{nlm}^{(Z)} (\boldsymbol{r}-\boldsymbol{R}_0) = E_n^{(Z)} \varphi_{nlm}^{(Z)} (\boldsymbol{r}-\boldsymbol{R}_0) $ と固有状態となるね。シュレディンガー方程式 $\hat{H} \psi(\boldsymbol{r}) = E \psi(\boldsymbol{r})$ に代入してすると

\begin{align}
\sum\limits_{nlm} a_{nlm} \left[ E_n + V(\boldsymbol{r}) \right] \varphi_{nlm}^{(Z)} (\boldsymbol{r}-\boldsymbol{R}_0) = E \sum\limits_{nlm} a_{nlm} \varphi_{nlm}^{(Z)} (\boldsymbol{r}-\boldsymbol{R}_0)
\end{align}

となるので、いつものとおり、両辺に $ \varphi_{n’l’m’}^{(Z)*}(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{R}_0)$ を掛けて全空間で積分すると、

\begin{align}
a_{n’l’m’} E_{n’} + \sum\limits_{nlm} a_{nlm} \langle n’,l’,m’| V(\boldsymbol{r}) | n, l, m \rangle = Ea_{n’l’m’}
\end{align}

となって、最も単純な固有値方程式の形になるね。ちなみに

\begin{align}
\langle n’,l’,m’| V(\boldsymbol{r}) | n, l, m \rangle &\ = \int \varphi_{n’l’m’}^{(Z)*}(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{R}_0) V(\boldsymbol{r}) \varphi_{nlm}^{(Z)}(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{R}_0) dV\\
\delta_{nn’}\delta_{ll’}\delta_{mm’} &\ = \int \varphi_{n’l’m’}^{(Z)*}(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{R}_0) \varphi_{nlm}^{(Z)}(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{R}_0) dV
\end{align}

だよ。このポテンシャル項を具体的に計算するために、原子核Aと原子核Bの重心位置を原点($\boldsymbol{R}_0=0 $)、原子核Aを基準とした原子核Bの位置ベクトルを $\boldsymbol{R} = (R,0,0)$ として、改めてポテンシャル項を書き直すと次のようになるね。

\begin{align}
V(\boldsymbol{r}) = -\frac{e^2}{4\pi \epsilon_0} \left[ \frac{1}{|\boldsymbol{r} -\frac{1}{2}\boldsymbol{R}|} + \frac{1}{|\boldsymbol{r} + \frac{1}{2}\boldsymbol{R}|} – \frac{Z}{|\boldsymbol{r}|} \right]
\end{align}

次回は、この計算結果を示すよ。


水素分子の固有状態の数値計算方法(失敗)


右図で表したような、$Z=1$ の原子核2個の周りを回る電子1個となる水素分子イオンのエネルギー準位を計算するよ。2つの原子核は空間に固定されていると考えると、ハミルトニアンは次のようになるね。

\begin{align}
\hat{H} = -\frac{\hbar^2}{2m_e} \nabla^2 + \frac{e^2}{4\pi \epsilon_0 | \boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_A|} + \frac{e^2}{4\pi \epsilon_0 | \boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_B|}
\end{align}

今までと同様に、波動関数をそれぞれの原子を基準とした水素原子の固有状態 $\varphi_{nlm}$ で次のように表すことができると考えるよ。

\begin{align}
\psi(\boldsymbol{r}) = \sum\limits_{nlm} \left[ C^{(A)}_{nlm} \varphi_{nlm}(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_A) +C^{(B)}_{nlm} \varphi_{nlm}(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_B) \right]
\end{align}

これをシュレディンガー方程式 $\hat{H}\psi(\boldsymbol{r}) = E\psi(\boldsymbol{r})$ に代入すると

\begin{align}
\sum\limits_{nlm} C^{(A)}_{nlm} \left[ E_n + \frac{e^2}{4\pi \epsilon_0 | \boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_B|} \right] \varphi_{nlm}(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_A) &\ +\sum\limits_{nlm} C^{(B)}_{nlm} \left[ E_n + \frac{e^2}{4\pi \epsilon_0 | \boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_A|} \right] \varphi_{nlm}(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_B) \\
&\ = E \sum\limits_{nlm} \left[ C^{(A)}_{nlm} \varphi_{nlm}(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_A) +C^{(B)}_{nlm} \varphi_{nlm}(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_B) \right]
\end{align}

となるね。ここから係数を計算するための固有値方程式を導入するために、両辺に $\varphi_{nlm}^*(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_A)$ と $\varphi_{nlm}^*(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_B)$ をそれぞれ掛けて全空間で積分するけれども、その際に「異なる量子数」に対する空間積分が直交してほしいけれども、きっと直交しないね。

両辺に $\varphi_{nlm}^*(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_A)$ を掛けて全空間で積分

\begin{align}
C^{(A)}_{n’l’m’} E_{n’} + \frac{e^2}{4\pi \epsilon_0 } \sum\limits_{nlm} C^{(A)}_{nlm} {}_A\!\langle n’,l’,m’| \frac{1}{| \boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_B|} |n,l,m\rangle\!{}_A &\ +\sum\limits_{nlm} C^{(B)}_{nlm} \left[ E_n {}_A\!\langle n’,l’,m’|n,l,m\rangle\!{}_B + {}_A\!\langle n’,l’,m’| \frac{1}{| \boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}_A|}|n,l,m\rangle\!{}_B \right] \\
&\ = E \left[ C^{(A)}_{n’l’m’} + \sum\limits_{nlm} C^{(B)}_{nlm} {}_A\!\langle n’,l’,m’|n,l,m\rangle\!{}_B \right]
\end{align}

いつもどおりに固有値方程式の導出を試みたけれども、やっぱり直交しないことがネックとなって、うまくいかないね。もうちょっと工夫してみるね。


ヘリウム原子基底状態の動径確率密度分布

前回を踏まえて、ヘリウム原子基底状態の動径確率密度分布を計算したので、報告するよ。次のグラフでは、ヘリウム原子基底状態に対する動径確率密度分布は2種類用意したよ。1つ目は「2つの電子のどちらかがその距離にいる確率密度( 青色:$\bar{P}_{100}^{Z=2}(r) $ )」、2つ目は「1つの電子が原点にいて、もう一つの電子がその距離にいる確率密度( 橙色:$P_{100}^{Z=2}(0,r) $ )」。あと比較対象として、「水素原子基底状態に対する動径確率密度分布($P_{100}^{Z=1}(r) $)」と「ヘリウム原子イオンの基底状態に対する動径確率密度分布($P_{100}^{Z=2}(r) $)」を同時にプロットしたよ。

横軸が原点からの距離、縦軸が確率密度だよ。一番強く原子核に束縛されているのが「ヘリウム原子イオンの基底状態」で、反対に最も束縛されていないのが「水素原子の基底状態」だね。つまり、原子核の電荷が $Z=2$ で電子が1個の場合が一番強く束縛されて、$Z=1$ で電子が1個の場合が最も束縛が弱いね。2種類用意したヘリウム原子を比較すると、1個を原点に存在する「橙色:$P_{100}^{Z=2}(0,r) $」は、他方の「青色:$\bar{P}_{100}^{Z=2}(r) $」と比較して、電子間の反発でより遠くに存在することがわかるね。


水素原子の外場による光電効果の数値計算方法(改)

この前、水素原子の外場による光電効果の数値計算方法を導出したけれども、この表式では、放出した電子は外場の影響をうけてしまって、放出方向がわからなくなってしまうね。今回はもう少し物理的な描像がわかりやすくなるような表式の導入を行うよ。波動関数を初期状態とする水素原子の基底状態 $\varphi_{100}$ と飛び出した電子の平面波を表す項の2つで

\begin{align}
\psi(\boldsymbol{r}, t) = a(t) \varphi_{100}(\boldsymbol{r}) + \sum\limits_{\boldsymbol{n}}’b_{\boldsymbol{n}}(t) \frac{1}{\sqrt{V}} \, e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}}
\end{align}

と表すとするよ。ただし、$ \boldsymbol{k} = \frac{2\pi}{L}(n_x, n_y, n_z) $ で、$L$ は空間サイズで $V =L^3$、 $\boldsymbol{n} = (n_x, n_y, n_z)$ は整数だよ。注意する点は、上記の和はすべての $\boldsymbol{n}$ で取らずに、基底状態 $\varphi_{100}(\boldsymbol{\boldsymbol{r}})$ の波数成分

\begin{align}
\varphi_{100}(\boldsymbol{\boldsymbol{k}}) = \frac{1}{\sqrt{V}} \int \varphi_{100}(\boldsymbol{r})e^{-i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}} dV
\end{align}

を含まない $\boldsymbol{n}$ に限って和を取るという制限をつけるよ。そうすることで、

\begin{align}
\int \varphi_{100}(\boldsymbol{r})e^{-i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}} dV = 0
\end{align}

というふうに、基底状態と平面波が直交すると考えることができるからね。これをハミルトニアン

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_0 + \frac{e}{m_e}\,\boldsymbol{A}\cdot \hat{\boldsymbol{p}} =\hat{H}_0 + \frac{e}{im_e}
\,\boldsymbol{A}\cdot\nabla
\end{align}

とするシュレーディンガー方程式

\begin{align}
i\hbar\frac{\partial}{\partial t} \psi(\boldsymbol{r}, t) = \hat{H} \psi(\boldsymbol{r}, t)
\end{align}

に代入した

\begin{align}
i\hbar \left[\varphi_{100}(\boldsymbol{r}) \frac{d a(t)}{d t} + \sum\limits_{\boldsymbol{n}}’ \frac{1}{\sqrt{V}} \, e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}} \frac{d b_{\boldsymbol{n}}(t)}{dt} \right] = a(t) \left(E_{100} +\frac{e}{m_e}\,\boldsymbol{A}\cdot \hat{\boldsymbol{p}}\right)\varphi_{100}(\boldsymbol{r}) + \left( \hat{H}_0 + \frac{e}{m_e}\,\boldsymbol{A}\cdot \hat{\boldsymbol{p}} \right) \sum\limits_{\boldsymbol{n}}’b_{\boldsymbol{n}}(t) \frac{1}{\sqrt{V}} \, e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}}
\end{align}

から出発して、展開係数 $a(t)$ と $b_{\boldsymbol{n}}(t)$ の時間発展の表式を導出するよ。ちなみに、外場は波数ベクトル $\boldsymbol{K}$、角振動数 $\omega$ のベクトルポテンシャル

\begin{align}
\boldsymbol{A} = \boldsymbol{A}_0 \left[ e^{i\boldsymbol{K}\cdot\boldsymbol{r} – i\omega t} + e^{-i\boldsymbol{K}\cdot\boldsymbol{r} + i\omega t}\right]
\end{align}

で表すよ。ただし、分散関係は電磁波なので光速 $c$ を用いて $\omega = cK$ となるよ。

1.両辺に $\varphi_{100}^*(\boldsymbol{r})$ を掛けて全空間で積分

先の基底状態と平面波の直交性と、$\hat{\boldsymbol{p}}/m_e = [ \hat{H}_0,\boldsymbol{r}]/i\hbar $を考慮して、両辺に $\varphi_{100}^*(\boldsymbol{r})$ を掛けて全空間で積分すると次のようになるよ。

\begin{align}
i\hbar \frac{d a(t)}{d t} = E_{100}a(t) + \frac{\hbar e}{im_e}\sum\limits_{\boldsymbol{n}}’b_{\boldsymbol{n}}(t)\frac{1}{\sqrt{V}} \int \varphi_{100}^*(\boldsymbol{r}) \boldsymbol{A}\cdot \nabla e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}} dV
\end{align}

第2項目の積分は

\begin{align}
\frac{1}{\sqrt{V}} \int \varphi_{100}^*(\boldsymbol{r}) \boldsymbol{A}\cdot \nabla e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}} dV &\ = i\boldsymbol{A}_0\cdot\boldsymbol{k} \left[ \frac{1}{\sqrt{V}} \int \varphi_{100}^*(\boldsymbol{r}) e^{i(\boldsymbol{k}+\boldsymbol{K})\cdot\boldsymbol{r}} dV e^{-i\omega t } + \frac{1}{\sqrt{V}} \int \varphi_{100}^*(\boldsymbol{r}) e^{i(\boldsymbol{k}-\boldsymbol{K})\cdot\boldsymbol{r}} dV e^{i\omega t } \right] \\
&\ = i\boldsymbol{A}_0\cdot\boldsymbol{k} \left[ \varphi_{100}^*(\boldsymbol{k}+\boldsymbol{K})e^{-i\omega t } +\varphi_{100}^*(\boldsymbol{k} – \boldsymbol{K})e^{i\omega t } \right]
\end{align}

と表すことができるので、これを元の式に代入した

\begin{align}
i\hbar \frac{d a(t)}{d t} = E_{100}a(t) + \frac{\hbar e}{m_e}\sum\limits_{\boldsymbol{n}}’ \boldsymbol{A}_0\cdot\boldsymbol{k} \left[ \varphi_{100}^*(\boldsymbol{k}+\boldsymbol{K})e^{-i\omega t } +\varphi_{100}^*(\boldsymbol{k} – \boldsymbol{K})e^{i\omega t } \right]b_{\boldsymbol{n}}(t)
\end{align}

が、係数 $a(t)$ に対する常微分方程式だね。この式はひとまず置いておくよ。

2.両辺に $\frac{1}{\sqrt{V}} e^{-i\boldsymbol{k}’\cdot\boldsymbol{r}}$ を掛けて全空間で積分

今度は、平面波の展開係数に関する表式を得るために、両辺に $\frac{1}{\sqrt{V}} e^{-i\boldsymbol{k}’\cdot\boldsymbol{r}}$ を掛けて全空間で積分するよ。基底状態と平面波の直交性を考慮すると次のようになるよ。

\begin{align}
i\hbar \frac{d b_{\boldsymbol{n}’}(t)}{d t} = a(t) \frac{\hbar e}{m_e}\frac{1}{\sqrt{V}} \int e^{-i\boldsymbol{k}’\cdot\boldsymbol{r}} \boldsymbol{A}\cdot \hat{\boldsymbol{p}} \varphi_{100}(\boldsymbol{r}) dV + \sum\limits_{\boldsymbol{n}}’b_{\boldsymbol{n}}(t)\, \frac{1}{V}\int e^{-i\boldsymbol{k}’\cdot\boldsymbol{r} } \left( \hat{H}_0 + \frac{e}{m_e}\,\boldsymbol{A}\cdot \hat{\boldsymbol{p}} \right) e^{i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{r}} dV
\end{align}

この内、まず右辺第2目は、平面波同士の相互作用を表しているね。もう少し具体的に言うと、$H_0$ 因子は原子核の存在による変化、$\boldsymbol{A}\cdot \hat{\boldsymbol{p}}$ 因子は外場による変化を表しているね。今回は、光電効果に着目するので、電離したあとの電子は、原子核や外場の影響を受けずににまっすぐ進んでと想定したいので、この項を無視するね。
次に、第1項目だけれども、この積分は先に導出した積分と非常によく似ているね。部分積分を行って整理すると

\begin{align}
\frac{1}{\sqrt{V}} \int e^{-i\boldsymbol{k}’\cdot\boldsymbol{r}} \boldsymbol{A}\cdot \hat{\boldsymbol{p}}\varphi_{100}(\boldsymbol{r}) dV
&\ = i \boldsymbol{A}_0\cdot \boldsymbol{k}’\left[ \frac{1}{\sqrt{V}} \int \varphi_{100}(\boldsymbol{r}) e^{-i(\boldsymbol{k}’-\boldsymbol{K})\cdot\boldsymbol{r}} dV e^{-i\omega t } + \frac{1}{\sqrt{V}} \int \varphi_{100}(\boldsymbol{r})e^{-i(\boldsymbol{k}’+\boldsymbol{K})\cdot\boldsymbol{r}} dV e^{i\omega t } \right]\\
&\ = i\boldsymbol{A}_0\cdot\boldsymbol{k}’ \left[ \varphi_{100}(\boldsymbol{k}’-\boldsymbol{K})e^{-i\omega t }
+\varphi_{100}(\boldsymbol{k}’ + \boldsymbol{K})e^{i\omega t } \right]
\end{align}

と表すことができるので、これを元の式に代入した

\begin{align}
i\hbar \frac{d b_{\boldsymbol{n}’}(t)}{d t} = \frac{\hbar e}{m_e} \boldsymbol{A}_0\cdot\boldsymbol{k}’ \left[ \varphi_{100}(\boldsymbol{k}’-\boldsymbol{K})e^{-i\omega t }
+\varphi_{100}(\boldsymbol{k}’ + \boldsymbol{K})e^{i\omega t } \right]a(t)
\end{align}

まとめ

以上をまとめると、基底状態の係数 $a(t)$ と平面波の展開係数 $b_{\boldsymbol{n}}(t)$ は連立常微分方程式

\begin{align}
i\hbar \frac{d a(t)}{d t} &\ = E_{100}a(t) + \frac{\hbar e}{m_e}\sum\limits_{\boldsymbol{n}}’
\boldsymbol{A}_0\cdot\boldsymbol{k} \left[ \varphi_{100}^*(\boldsymbol{k}+\boldsymbol{K})e^{-i\omega t }
+\varphi_{100}^*(\boldsymbol{k} – \boldsymbol{K})e^{i\omega t } \right]b_{\boldsymbol{n}}(t)\\
i\hbar \frac{d b_{\boldsymbol{n}’}(t)}{d t} &\ = \frac{\hbar e}{m_e} \boldsymbol{A}_0\cdot\boldsymbol{k}’ \left[ \varphi_{100}(\boldsymbol{k}’-\boldsymbol{K})e^{-i\omega t }+\varphi_{100}(\boldsymbol{k}’ + \boldsymbol{K})e^{i\omega t } \right]a(t)
\end{align}

に従って時間発展するね。基底状態のフーリエ変換はすでに計算しているのでこれを利用して、初期条件を $a(0)=1$、$b_{\boldsymbol{n}}(0) =0$ として、時刻が大きくなるに連れて、$|a(t)|^2$ が小さくなって行くに従って $b_{\boldsymbol{n}}(t)$ が大きくなることが想定されるね。そのときの $\boldsymbol{n}$ の分布が電子が飛び出していく方向を表すよ。次回は実際に計算してみるよ。