水素原子に電場を加えたときのエネルギー準位をシミュレーションしてみよう!(1次のシュタルク効果の計算結果を示すよ!)

前回、水素原子殻の周りを回る電子のハミルトニアンに外場を加えたときを対象として、
外場が加わる前の固有状態で展開したときの展開係数$a_{nlm}$を基底とした行列を定義することができて、
その固有値がエネルギー、固有ベクトルが展開係数の値となることを復習したね。
今回は、外場として時間に依存しない電場を加えたときの変化をシミュレーションしてみよう!

電場を加えたときのハミルトニアン

電荷$q$の荷電粒子に電場$\boldsymbol{E}$が加えられると、荷電粒子には$\boldsymbol{F} = q\boldsymbol{E}$の力が加わるんだったよね。
電場が時間・空間に依存しない一定値の場合には、原点を基準とした電子のポテンシャルエネルギー($q=-e$)は

\begin{align}
V = – q \boldsymbol{E} \cdot \boldsymbol{r} = e \boldsymbol{E} \cdot \boldsymbol{r}
\end{align}

となるんだったね。つまりこのポテンシャルエネルギーが、外場無しのハミルトニアンに加えられることになるよ。

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_0 + V = \hat{H}_0 + e \boldsymbol{E} \cdot \boldsymbol{r}
\end{align}

電場を加えたときの固有値方程式の計算方法

この外場のポテンシャルを前回導出した行列に代入して行列の固有方程式を計算することで、電子が受ける電場の影響を計算することができるよ。
そのためには行列要素をまずは計算する必要があるよ。今回、電場の向きをz軸方向($\boldsymbol{E} = (0, 0, E_z)$)とした場合、
ポテンシャルエネルギーは電子のz座標だけに依存して、$V = e E_z z$と表されるよ。つまり、行列要素に現れる$V^{n’l’m’}_{nlm}$は次の3重積分

\begin{align}
V^{n’l’m’}_{nlm} = e E_z \int_0^\infty\!\!\! r^2 dr \int_0^\pi \!\!\! \sin\theta d\theta \int_0^{2\pi} \!\!\! d\phi \left[\varphi_{n’l’m’}^* z \varphi_{nlm} \right]
\end{align}

で得られ、これを用いて固有方程式を計算するという流れになるね。この3重積分と行列の固有値方程式の計算はすべてコンピュータにまかせちゃうよ。
ちなみに、展開する固有状態の数(n, l, m)を大きくするほど計算精度が高くなるけれども、その分だけ計算時間が必要になるんだよね。

電場を加えたときのエネルギー順位の変化

電場$E_z = 10^{9}[{\rm J/m}]$を単位として、徐々に強くしたときのエネルギー準位の変化を見てみよう!$10^{9}$というととても大きな値のように感じるけれど、
ちょうど$10^{9}$というが電子が電場から受ける力と、原子核から受ける力だいたい同じスケールになるんだよね。

主量子数n=3まで展開した場合のエネルギー準位

次のグラフは主量子数n=3まで展開した場合のエネルギー準位の電場依存性の計算結果だよ。横軸が電場、縦軸がエネルギー準位だよ。
$E_z=0$のエネルギー準位は$E_n\simeq -13.6/n^2 [{\rm eV}]$で、基底状態(n=1)はほとんど変化しているようには見えないけど、
n=2やn=3の状態は電場が大きくなるにつれて縮退が解けていく様子が見えるね。

第1励起状態(n=2)と第2励起状態(n=3)の近傍を拡大してみよう!

まずは第1励起状態(n=2)の近傍を拡大してみるね。もともと4重縮退だった第1励起状態のうち2つが電場の大きさに比例して、上下に別れていくのがわかるね。
でもこの真ん中の2つの状態は電場が加えられてもびびくともしてないね。

次は第2励起状態(n=3)の近傍を拡大してみるね。もともと9重縮退だった第2励起状態のうち7つが電場の大きさに比例して、上下に別れていくのがわかるね。
そのうち1つは他の6つに比べると変化の割合は小さいけれどもね。
第1励起状態と同じように真ん中の2つの状態は電場が加えられてもびびくともしてないね。

1次のシュタルク効果って言うんだよ!

このように外部電場によってエネルギー準位の縮退が解けることは、〇〇年にシュタルクさんによって発見されたんだって。
それでシュタルク効果って呼ばれるよ。今回シミュレーションで示したのはエネルギーのズレが外部電場に比例しているので、1次のシュタルク効果って言われているんだってね。ちなみにさらに電場を強くすると、今回全くびくともしなかった基底状態(n=1)のエネルギーも変化するんだよ。これは今後シミュレーションしてみよう!

主量子数n=5まで展開した場合のエネルギー準位

先の結果は、ハミルトニアンの固有状態を主量子数n=3まで展開した場合のエネルギー準位だったね。
次はより精度高めるために主量子数n=5まで展開した計算結果のうち、n=1からn=3までのエネルギー準位を示すよ。
n=1とn=2のエネルギー準位は変化が無いように見えるけど、n=3のエネルギー準位の電場が大きいほど形が崩れている感じがするね。
さっきと同様にn=2とn=3のエネルギー近傍を拡大してみよう!

第1励起状態(n=2)と第2励起状態(n=3)の近傍を拡大してみよう!

まずは第1励起状態(n=2)の近傍を拡大してみるね。n=3まで展開した場合と今回のn=5までの場合で変化はほとんどなさそうだね。

次は第2励起状態(n=3)の近傍を拡大してみるね。電場が$3\times10^{9}$までは、n=3まで展開した場合とほとんど一緒だけれども、
それよりも大きな電場の場合には、全体的にエネルギーは下がっていく傾向が確かめられるね。これはどうしてだろうね。
きっと第3励起状態(n=4)の固有状態と結合してより小さなエネルギー固有状態が実現できているんだね。

電場を加えるとなぜエネルギー準位が変化するのか?

これまで線形独立だった元の固有状態は、電場を加えることで関係性をもっちゃうよ。
その結果、元の固有状態の足し引きした状態が、電場を加えたハミルトニアンの新たな固有状態となって、新しいエネルギー準位を決定することになるんだね。
電場を加えることでエネルギーが上下することを定性的に考えてみると、電場はもともと電子にとって坂道みたいなものなので、坂道の下に行ける電子状態と上に行く電子状態が生まれるということかな。

まとめと今後の予定

わかったこと

  • 外場として電場を加えると、各エネルギー準位の縮退が大部分が解ける。
  • エネルギーの変化量は電場の大きさに比例する。 → 1次のシュタルク効果

今後の予定

  • 1次のシュタルク効果の電子分布を調べてみよう!
  • 電場をもっと強くしたときの変化を調べてみよう!


【復習】水素原子に外場を加えたときの固有方程式の解き方

水素原子核の周りを運動する電子のエネルギー

水素原子核の周りを運動する電子のシュレディンガー方程式から導かれる固有方程式は次のとおりだったよね。

\begin{align}
\hat{H} \varphi_{nlm} = E_n \varphi_{nlm}
\end{align}

$\hat{H}$はハミルトニアン、$\varphi_{nlm}$は固有関数で、$E_n$はエネルギー固有値で

\begin{align}
E_n=- \frac {\hbar ^2}{2m_ea_B^2}\, \frac{1}{n^2} \simeq – \frac{13.6}{n^2}[\rm eV]
\end{align}

の値を取るんだったよね。この式からもわかるとおり、エネルギーは主量子数$n$にしか寄らないから、方位量子数、磁気量子数が違っていても同じ値になるんだったね。
つまり、n=1のK殻は1個(1s:1個)、n=2のL殻では4個(2s:1個、2p:3個)、n=3のM殻では9個(3s:1個、3p:3個、3d:5個)のエネルギーはそれぞれすべて同じ値となるんだね。
このように異なる固有状態が同じ同じエネルギーとなることは「縮退」と呼ばれるんだったね。縮退は対称性が高いほど生じるよ。

水素原子核の周りを運動する電子に外場を加えるとどうなるの?

水素原子核の周りを運動する電子に外から何かの力を加えるとハミルトニアンはもとのハミルトニアンを$\hat{H}_0$と表して

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_0 + V
\end{align}

という形に変化するよ。$V$は外から加えられた力によるポテンシャルエネルギーだよ。
外からの力は外場と呼ばれるよ。外場が加えられると $\varphi_{nlm}$ はハミルトニアンの固有状態ではなくなっちゃうんだよね。
そこで新しい固有状態を$\psi$として、新しい固有方程式

\begin{align}
\hat{H} \psi = E \psi
\end{align}

を解き直す必要があるわけだね。

外場が加えられたときの固有方程式の解き方

外場がない場合の固有関数$\varphi_{nlm}$は正規直交完全系をなすので、外場が加えられたときの固有状態$\psi$は$\varphi_{nlm}$で重ね合わせで表すことができるので、

\begin{align}
\psi = \sum_{n, l, m} a_{nlm} \varphi_{nlm}
\end{align}

と表わすことができるよ。$a_{nlm}$は展開係数だね。
展開係数が決定できれば固有方程式を解いたことになるので、展開係数に関する方程式を導く必要があるよ。
まずは代入して、

\begin{align}
\sum_{n, l, m} a_{nlm} \left[ E_n + V \right] \varphi_{nlm} = E \sum_{n, l, m} a_{nlm} \varphi_{nlm}
\end{align}

そして、両辺に$\varphi_{nlm}$の複素共役$\varphi_{n’l’m’}^*$を掛けて全空間で積分すると

\begin{align}
E_{n’} a_{n’l’m’} + \sum_{n, l, m}a_{nlm} V^{n’l’m’}_{nlm} = E a_{n’l’m’}
\end{align}

となって、$a_{n’l’m’}$に関する連立方程式が導かれるんだね。$V^{n’l’m’}_{nlm}$は式を簡略化するために改めて定義した

\begin{align}
V^{n’l’m’}_{nlm} \equiv \int_0^\infty\!\!\! r^2 dr \int_0^\pi \!\!\! \sin\theta d\theta \int_0^{2\pi} \!\!\! d\phi \left[\varphi_{n’l’m’}^* V \varphi_{nlm} \right]
\end{align}

だよ。連立方程式は行列で表すとわかりやすくなるので、エネルギーの小さい順に固有関数の係数を並べると次のようになるよ。

\begin{align}
\left(\matrix{ E_1 +V_{100}^{100} & V_{200}^{100}& V_{21-1}^{100} & V_{210}^{100} & V_{211}^{100} & \cdots \cr
V_{100}^{200} & E_2 + V_{200}^{200}& V_{21-1}^{200} & V_{210}^{200} &V_{211}^{200} &\cdots \cr
V_{100}^{21-1} & V_{200}^{21-1} & E_2 + V_{21-1}^{21-1} & V_{210}^{21-1}& V_{211}^{21-1}& \cdots \cr
V_{100}^{210} & V_{200}^{210} & V_{21-1}^{210} & E_2 + V_{210}^{210}& V_{211}^{210}& \cdots \cr
V_{100}^{211} & V_{200}^{211} & V_{21-1}^{211} & V_{210}^{211}& E_2 + V_{211}^{211}& \cdots \cr
\vdots & \vdots & \vdots & \vdots & \vdots & \ddots } \right) \left(\matrix{ a_{100} \cr a_{200} \cr a_{21-1} \cr a_{210} \cr a_{211} \cr \vdots }\right) = E \left(\matrix{ a_{100} \cr a_{200} \cr a_{21-1} \cr a_{210} \cr a_{211} \cr \vdots }\right)
\end{align}

まさに行列表した固有値方程式の形になっているのがわかるね。
これで固有値と固有ベクトルを計算すると、固有値はそのまま外場が加えられた場合のエネルギー、固有ベクトルがそのまま展開係数の値そのものになるね。
次回は、外場として電場を加えたときの様子をシミュレーションします!