ヘリウム原子のエネルギー準位と固有関数の空間分布(直交系展開によるエネルギー固有状態の計算結果)

ヘリウム原子のエネルギー固有状態の計算方法」に基づいて、ヘリウム原子のエネルギー準位と固有関数の空間分布を計算したよ。「ヘリウム原子の基底状態の計算結果」で示したとおり、計算結果はよく知られた精密な実験結果とかなり一致しているよ。

ヘリウム原子のエネルギー準位

次の図は、パラ(対称関数・スピン1重項)とオルト(反対称関数・スピン3重項)の主量子数 $n=1,2,3$ のエネルギー準位だよ。オルトのほうがパラよりも若干小さな値となるね。これは交換相互作用の結果だね。イオン化エネルギーは、電子2個の基底状態から電子1個を引き離すために必要なエネルギーで、「基底状態エネルギー($-79.18[{\rm eV}]$)」から「電子が1個のみのヘリウム原子の基底状態エネルギー( $-54.4[{\rm eV}]$ )」で計算できるよ。

ヘリウム原子の固有状態の空間分布

今回も独立電子近似の場合と同様、粒子の1つが $\varphi_{100}(\boldsymbol{r})|$の最も確率の高い原点( $\boldsymbol{r}_1=0$ あるいは $\boldsymbol{r}_2=0$ )に存在するとして、他方の粒子の空間確率密度を描画するよ。最初の表がパラヘリウム(対称関数・スピン1重項)、次の表がオルトヘリウム(反対称関数・スピン3重項)だよ。

記号 $(n_1,l_1,m_1)\times(n_2,l_2,m_2)$ 展開係数 対称関数 描画範囲
実部 虚部 XY平面 YZ平面 ZX平面 3面表示
$1s$ $(1,0,0)\times(1,0,0)$ 0.921 0 $L=2[a_B]$
$(1,0,0)\times(2,0,0)$ -0.384 0
$2s$ $(1,0,0)\times(1,0,0)$ -0.114 0 $L=20[a_B]$
$(1,0,0)\times(2,0,0)$ -0.606 0.001
$(1,0,0)\times(3,0,0)$ 0.766 -0.004
$2p$ $(1,0,0)\times(2,1,-1)$ 0.194 -0.339 $L=20[a_B]$
$(1,0,0)\times(2,1,0)$ -0.155 -0.528
$(1,0,0)\times(2,1,1)$ 0.064 0.0825
$(1,0,0)\times(3,1,-1)$ -0.211 0.358
$(1,0,0)\times(3,1,0)$ 0.162 -0.561
$(1,0,0)\times(3,1,1)$ -0.0629 -0.081
$2p$ $(1,0,0)\times(2,1,-1)$ -0.463 -0.058 $L=20[a_B]$
$(1,0,0)\times(2,1,0)$ -0.278 0.087
$(1,0,0)\times(2,1,1)$ -0.379 0.101
$(1,0,0)\times(3,1,-1)$ 0.508 0.065
$(1,0,0)\times(3,1,0)$ 0.304 -0.094
$(1,0,0)\times(3,1,1)$ 0.401 -0.116
$2p$ $(1,0,0)\times(2,1,-1)$ 0.267 0.125 $L=20[a_B]$
$(1,0,0)\times(2,1,0)$ 0.241 0.134
$(1,0,0)\times(2,1,1)$ -0.527 -0.119
$(1,0,0)\times(3,1,-1)$ 0.290 -0.127
$(1,0,0)\times(3,1,0)$ -0.259 -0.151
$(1,0,0)\times(3,1,1)$ 0.565 0.136
$3s$ - - - $L=30[a_B]$
$3p$ - - - $L=30[a_B]$
$3p$ - - - $L=30[a_B]$
$3p$ - - - $L=30[a_B]$
$3d$ - - - $L=30[a_B]$
$3d$ - - - $L=30[a_B]$
$3d$ - - - $L=30[a_B]$
$3d$ - - - $L=30[a_B]$
$3d$ - - - $L=30[a_B]$

記号 $(n_1,l_1,m_1)\times(n_2,l_2,m_2)$ 展開係数 反対称関数 描画範囲
実部 虚部 XY平面 YZ平面 ZX平面 3面表示
$2s$ $(1,0,0)\times(2,0,0)$ 0.875 0 $L=20[a_B]$
$(1,0,0)\times(3,0,0)$ -0.469 0
$2p$ $(1,0,0)\times(2,1,-1)$ -0.101 0.300 $L=20[a_B]$
$(1,0,0)\times(2,1,0)$ 0.404 -0.309
$(1,0,0)\times(2,1,1)$ 0.005 0.492
$(1,0,0)\times(3,1,-1)$ 0.0790 -0.245
$(1,0,0)\times(3,1,0)$ -0.335 0.251
$(1,0,0)\times(3,1,1)$ 0.002 -0.393
$2p$ $(1,0,0)\times(2,1,-1)$ 0.336 0.596 $L=20[a_B]$
$(1,0,0)\times(2,1,1)$ -0.254 -0.255
$(1,0,0)\times(3,1,-1)$ -0.268 -0.478
$(1,0,0)\times(3,1,1)$ 0.2145 0.206
$2p$ $(1,0,0)\times(2,1,-1)$ 0.141 0.130 $L=20[a_B]$
$(1,0,0)\times(2,1,0)$ 0.087 0.570
$(1,0,0)\times(2,1,1)$ 0.416 0.234
$(1,0,0)\times(3,1,-1)$ -0.118 -0.108
$(1,0,0)\times(3,1,0)$ -0.0744 -0.466
$(1,0,0)\times(3,1,1)$ -0.336 -0.197
$3s$ - - - $L=40[a_B]$
$3p$ - - - $L=40[a_B]$
$3p$ - - - $L=40[a_B]$
$3p$ - - - $L=40[a_B]$
$3d$ - - - $L=40[a_B]$
$3d$ - - - $L=40[a_B]$
$3d$ - - - $L=40[a_B]$
$3d$ - - - $L=40[a_B]$
$3d$ - - - $L=40[a_B]$

ちなみにヘリウム原子の場合、直交関数系は $(1,0,0)$ を必ず含むよ。なぜならば、$(1,0,0)$ から次に低い $(2,0,0)$ とした場合の固有エネルギーは約 $-20[{\rm eV}]$ で、イオン化エネルギーよりも高くなるために実質的には先に電離してしまうね。