水素原子核の周りを運動する電子のエネルギー
水素原子核の周りを運動する電子のシュレディンガー方程式から導かれる固有方程式は次のとおりだったよね。
\begin{align}
\hat{H} \varphi_{nlm} = E_n \varphi_{nlm}
\end{align}
$\hat{H}$はハミルトニアン、$\varphi_{nlm}$は固有関数で、$E_n$はエネルギー固有値で
\begin{align}
E_n=- \frac {\hbar ^2}{2m_ea_B^2}\, \frac{1}{n^2} \simeq – \frac{13.6}{n^2}[\rm eV]
\end{align}
の値を取るんだったよね。この式からもわかるとおり、エネルギーは主量子数$n$にしか寄らないから、方位量子数、磁気量子数が違っていても同じ値になるんだったね。
つまり、n=1のK殻は1個(1s:1個)、n=2のL殻では4個(2s:1個、2p:3個)、n=3のM殻では9個(3s:1個、3p:3個、3d:5個)のエネルギーはそれぞれすべて同じ値となるんだね。
このように異なる固有状態が同じ同じエネルギーとなることは「縮退」と呼ばれるんだったね。縮退は対称性が高いほど生じるよ。
水素原子核の周りを運動する電子に外場を加えるとどうなるの?
水素原子核の周りを運動する電子に外から何かの力を加えるとハミルトニアンはもとのハミルトニアンを$\hat{H}_0$と表して
\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_0 + V
\end{align}
という形に変化するよ。$V$は外から加えられた力によるポテンシャルエネルギーだよ。
外からの力は外場と呼ばれるよ。外場が加えられると $\varphi_{nlm}$ はハミルトニアンの固有状態ではなくなっちゃうんだよね。
そこで新しい固有状態を$\psi$として、新しい固有方程式
\begin{align}
\hat{H} \psi = E \psi
\end{align}
を解き直す必要があるわけだね。
外場が加えられたときの固有方程式の解き方
外場がない場合の固有関数$\varphi_{nlm}$は正規直交完全系をなすので、外場が加えられたときの固有状態$\psi$は$\varphi_{nlm}$で重ね合わせで表すことができるので、
\begin{align}
\psi = \sum_{n, l, m} a_{nlm} \varphi_{nlm}
\end{align}
と表わすことができるよ。$a_{nlm}$は展開係数だね。
展開係数が決定できれば固有方程式を解いたことになるので、展開係数に関する方程式を導く必要があるよ。
まずは代入して、
\begin{align}
\sum_{n, l, m} a_{nlm} \left[ E_n + V \right] \varphi_{nlm} = E \sum_{n, l, m} a_{nlm} \varphi_{nlm}
\end{align}
そして、両辺に$\varphi_{nlm}$の複素共役$\varphi_{n’l’m’}^*$を掛けて全空間で積分すると
\begin{align}
E_{n’} a_{n’l’m’} + \sum_{n, l, m}a_{nlm} V^{n’l’m’}_{nlm} = E a_{n’l’m’}
\end{align}
となって、$a_{n’l’m’}$に関する連立方程式が導かれるんだね。$V^{n’l’m’}_{nlm}$は式を簡略化するために改めて定義した
\begin{align}
V^{n’l’m’}_{nlm} \equiv \int_0^\infty\!\!\! r^2 dr \int_0^\pi \!\!\! \sin\theta d\theta \int_0^{2\pi} \!\!\! d\phi \left[\varphi_{n’l’m’}^* V \varphi_{nlm} \right]
\end{align}
だよ。連立方程式は行列で表すとわかりやすくなるので、エネルギーの小さい順に固有関数の係数を並べると次のようになるよ。
\begin{align}
\left(\matrix{ E_1 +V_{100}^{100} & V_{200}^{100}& V_{21-1}^{100} & V_{210}^{100} & V_{211}^{100} & \cdots \cr
V_{100}^{200} & E_2 + V_{200}^{200}& V_{21-1}^{200} & V_{210}^{200} &V_{211}^{200} &\cdots \cr
V_{100}^{21-1} & V_{200}^{21-1} & E_2 + V_{21-1}^{21-1} & V_{210}^{21-1}& V_{211}^{21-1}& \cdots \cr
V_{100}^{210} & V_{200}^{210} & V_{21-1}^{210} & E_2 + V_{210}^{210}& V_{211}^{210}& \cdots \cr
V_{100}^{211} & V_{200}^{211} & V_{21-1}^{211} & V_{210}^{211}& E_2 + V_{211}^{211}& \cdots \cr
\vdots & \vdots & \vdots & \vdots & \vdots & \ddots } \right) \left(\matrix{ a_{100} \cr a_{200} \cr a_{21-1} \cr a_{210} \cr a_{211} \cr \vdots }\right) = E \left(\matrix{ a_{100} \cr a_{200} \cr a_{21-1} \cr a_{210} \cr a_{211} \cr \vdots }\right)
\end{align}
まさに行列表した固有値方程式の形になっているのがわかるね。
これで固有値と固有ベクトルを計算すると、固有値はそのまま外場が加えられた場合のエネルギー、固有ベクトルがそのまま展開係数の値そのものになるね。
次回は、外場として電場を加えたときの様子をシミュレーションします!