【量子コンピュータを作ろう!】(17)2つの独立した2重量子井戸に束縛された電子による制御NOT演算計算結果



今回は、前回示したハミルトニアン(クーロン相互作用+静電場+電磁波)を用いて計算した結果を示すよ。上左図は前々回に示したエネルギー準位の静電場強度依存性だけれども、$|10\rangle$ と $|11\rangle$ のエネルギー差に対応した電磁波を入射して生じる状態遷移を計算するよ。ちなみにこれは、第1量子ビットが $|1\rangle$ のときに第2量子ビットを反転させる制御・NOT演算に対応しているよ。あとで示すけれども、2量子ビットのラビ振動は量子ビット同士が絡み合った量子もつれ(エンタングル)状態を任意に生成することができるよ。

遷移状態:$|10\rangle$ と $|11\rangle$ の存在確率の時間依存性

次のグラフは初期状態 $|10\rangle$ に角振動数 $\omega = \Delta E /\hbar$ の電磁波を入射したときの、$|11\rangle$ との状態遷移の様子だよ。ラビ振動の結果、2つの状態を三角関数的に行ったり来たりするね。$|10\rangle$ 100%の初期状態に約 $ 26.1[{\rm ns}]$ 照射すると、$|10\rangle$ と $|11\rangle$ の存在確率は50%つづとなり、さらに約 $ 26.1[{\rm ns}]$ 照射すると、反対に $|11\rangle$ 100% の状態になるね。ちょうど存在確率が反転する時間の光は「$\pi$パルス」って呼ばれるよ。

先にも言ったけれども、このラビ振動は2量子ビット同士が絡み合った量子もつれ状態を生み出すことができるね。例えば、$|10\rangle$ と基底状態の $|01\rangle$ のエネルギー差 $\Delta E_{01}^{11}$ として、角振動数 $\omega = \Delta E_{01}^{11} /\hbar$ の電磁波を $\pi$パルスの半分を入射すると、

\begin{align}
|\Psi(t)\rangle = \frac{1}{\sqrt{2}} \left[ |10\rangle + |01\rangle \right]
\end{align}

という状態を作ることができるね。これは単に $|10\rangle$ と $|01\rangle $ の存在確率が 50%づつっていうだけでなくて、第1量子ビットを観測したときに、第2量子を観測しなくてもその状態が100%の確率で分かるという量子もつれ状態となっているよ。具体的には、第1量子ビットが $|0\rangle$ の場合には第2量子ビットは必ず $|1\rangle$ に存在し、また反対に第1量子ビットが $|1\rangle$ の場合には第2量子ビットは必ず $|0\rangle$ に存在するよ。ちなみに、この量子井戸の間隔を量子状態が変化しないようにゆっくりと、どこまで離していっても成り立つよ。そのため、通信に利用することができると考えられているよ。その場合は、量子井戸による量子もつれではなく、光子をを用いた量子もつれを利用するよ。

制御NOT演算に対応する波動関数の時間発展

次の図はラビ振動による制御NOT演算時の波動関数の時間経過を示したアニメーションだよ。左の第1量子井戸は電子が右側( $|1\rangle$ )、第2量子井戸は電子が左側( $|0\rangle$ )と右側( $|1\rangle$ )を行ったり来たりしているね。

これで量子コンピュータの2量子ビットマシンの動作原理シミュレーションは完成したよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(16)2つの独立した2重量子井戸に束縛された電子による制御NOT演算のハミルトニアンと計算方法


いよいよ最終目的の2量子ビットによる制御NOT演算を行うために、時間発展に必要なハミルトニアンの導出と計算方法を示すよ。復習から入っていくね。量子ビットを表す2つの量子井戸(幅:$L=10[{\rm nm}]$、高さ$+\infty$)はそれぞれが壁(幅: $W=L/5=2[{\rm nm}]$、高さ $V_0=0.3[{\rm eV}]$)で仕切られた2部屋になっていて、前々回前回解説したとおり、2つの量子井戸の間隔 $R$ がちょうどよければ($R=20[{\rm nm}]$)、電子間のクーロン相互作用が存在しても、電子は左右のどちらかに存在する状態を作り出せるね。そして、それぞれの量子井戸で左側に電子が存在する状態を $|0\rangle$、右側に電子が存在する場合を $|1\rangle$ と表わして、2電子の状態は $|00\rangle$、$|01\rangle$、$|10\rangle$、$|11\rangle$ の4パターンで表すよ。

定常状態のハミルトニアンと固有関数

この系の固有関数は、2つの量子井戸でそれぞれ定義される関数

\begin{align}
\varphi_{n_1}(x_1) &\ = \sqrt{\frac{2}{L}}\sin\left[ k_{n_1} \left( x_1 + \frac{R}{2} + \frac{L}{2}\right)\right] \ , \
k_{n_1} = \frac{\pi(n_1+1)}{L} \\
\varphi_{n_2}(x_2) &\ = \sqrt{\frac{2}{L}}\sin\left[ k_{n_2} \left( x_2 – \frac{R}{2} + \frac{L}{2}\right)\right] \ , \
k_{n_2} = \frac{\pi(n_2+1)}{L} \\
\end{align}

を用いたその積

\begin{align}
\varphi_{n_1n_2}(x_1, x_2) = \varphi_{n_1}(x_1)\varphi_{n_2}(x_2)
\end{align}

で表される正規直交系で展開することができるね。ちなみに単純な積で表されるのは2つの電子は交わらないからだよ。この2電子系の正規直交関数を用いて、次のように展開することができるね。

\begin{align}
\psi_{l_1l_2}(x_1, x_2) = \sum\limits_{n_1n_2} a^{(l_1l_2)}_{n_1n_2} \varphi_{n_1n_2}(x_1, x_2)
\end{align}

$l_1$ と $l_2$ は $0$ または $1$ のどちらかを取り、$\psi_{00}(x_1, x_2)$ は $|00\rangle$、$\psi_{01}(x_1, x_2)$ は $|01\rangle$、$\psi_{10}(x_1, x_2)$ は $|10\rangle$、$\psi_{11}(x_1, x_2)$ は $|11\rangle$ にそれぞれ対応した固有関数だよ。$a^{(l_1l_2)}_{n_1n_2}$ のように上付きのインデックス $l_1, l_2$ をつけたのはそれぞれの状態で展開係数の値が異なるので明示的につけているよ。この固有関数に対応するハミルトニアンは次のとおりだよ。

\begin{align}
\hat{H}^{(0)} = -\frac{\hbar^2}{2m_e}\, \frac{\partial^2}{\partial x_1^2} + eE_xx_1 + V_1(x_1)-\frac{\hbar^2}{2m_e}\, \frac{\partial^2}{\partial x_2^2} + eE_xx_2 + V_2(x_2) + \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\,\frac{1}{|x_1-x_2|}
\end{align}

$\hat{H}^{(0)}$ とインデックスに $(0)$ をつけているのは、前回すでに固有状態を計算できていて、次はこれに電磁波を加えることを想定しているからだよ。先の固有関数はこのハミルトニアンなので固有状態は

\begin{align}
\hat{H}^{(0)}\psi_{l_1l_2}(x_1, x_2) = E^{(0)}_{l_1l_2}\psi_{l_1l_2}(x_1, x_2)
\end{align}

と表されるよ。ここまでが前回の内容だね。ちなみに固有状態は

\begin{align}
\hat{H}^{(0)}|l_1l_2\rangle &\ = E^{(0)}_{l_1l_2}|l_1l_2\rangle \\
\langle l_1l_2| \hat{H}^{(0)} &\ = \langle l_1l_2|E^{(0)}_{l_1l_2}
\end{align}

とも表すことができるよ。これは後で使うね。

電磁波を入射したときのハミルトニアンと計算方法


次に状態遷移を起こすために電磁波を加えるよ。ベクトルポテンシャルを $\boldsymbol{A}(t)$ としてハミルトニアンは

\begin{align}
\hat{H}(t) = \hat{H}^{(0)} + \frac{e}{m_e} \boldsymbol{A}(t)\cdot \hat{\boldsymbol{p}}_1 + \frac{e}{m_e} \boldsymbol{A}(t)\cdot \hat{\boldsymbol{p}}_2
\end{align}

となるね。今回も1次元系で考えているので、ベクトルポテンシャルを$\boldsymbol{A}(t) = (A_x(t), 0, 0)$ として、

\begin{align}
A_{x_1}(t) &\ = A_0 \cos(kx_1-\omega t)\\
A_{x_2}(t) &\ = A_0 \cos(kx_2-\omega t)
\end{align}

なので、ハミルトニアンは

\begin{align}
\hat{H}(t) = \hat{H}^{(0)} + \frac{e}{m_e} A_0 \left[ \cos(kx_1-\omega t)\hat{p}_{x_1} +\cos(kx_2-\omega t)\hat{p}_{x_2} \right]
\end{align}

となるね。このハミルトニアンは時間に依存するので固有状態は存在しないので、波動関数 $\Psi(t,x_1,x_2)$ を先の固有関数 $\psi_{l_1l_2}(x_1, x_2)$ で展開するよ。

\begin{align}
\Psi(t,x_1,x_2) = \sum\limits_{l_1 l_2} b_{l_1l_2}(t) \psi_{l_1l_2}(x_1, x_2)
\end{align}

$b_{l_1l_2}(t)$ が展開係数で、この展開係数が時間とともに変化するよ。時間に依存するシュレーディンガー方程式

\begin{align}
i\hbar \frac{\partial }{\partial t} \Psi(t,x_1,x_2)= \hat{H}(t) \Psi(t,x_1,x_2)
\end{align}

に代入して、両辺に $\psi_{m_1m_2}^*(x_1, x_2)$ を掛けて全空間で積分すると、次のような連立微分方程式になるよ。

\begin{align}
i\hbar \frac{d b_{m_1m_2}(t) }{d t} = E^{(0)}_{m_1m_2} b_{m_1m_2}(t) + e A_0 \sum\limits_{l_1 l_2} b_{l_1l_2}(t) \langle m_1 m_2| \left[\cos(kx_1-\omega t)\frac{\hat{p}_{x_1}}{m_e} + \cos(kx_2-\omega t)\frac{\hat{p}_{x_2}}{m_e}\right]| l_1l_2 \rangle
\end{align}

$\hat{p}_{x_1}/m_e = [\hat{H}^{(0)}, x_1 ]/i\hbar$、 $\hat{p}_{x_2}/m_e = [\hat{H}^{(0)}, x_2 ]/i\hbar$ の恒等式と長波長近似($kx_1 = kx_2 \simeq 0$)を考慮すると次のようになるよ(特に長波長近似を課すことをしなくても数値計算自体は問題なくできるよ。でも表式が簡単になるね)。

\begin{align}
&\ \langle m_1 m_2| \left[\cos(kx_1-\omega t)\frac{\hat{p}_{x_1}}{m_e} + \cos(kx_2-\omega t)\frac{\hat{p}_{x_2}}{m_e}\right]| l_1l_2 \rangle\\
&\ =\frac{1}{i\hbar} \langle m_1 m_2| \left[\cos(kx_1-\omega t)\left(\hat{H}^{(0)}x_1 – x_1\hat{H}^{(0)}\right) + \cos(kx_2-\omega t)\left(\hat{H}^{(0)}x_2- x_2\hat{H}^{(0)}\right)\right]| l_1l_2 \rangle\\
&\ \simeq \frac{1}{i\hbar}\cos(\omega t)\langle m_1 m_2| \left[\hat{H}^{(0)}x_1 – x_1\hat{H}^{(0)} + \hat{H}^{(0)}x_2- x_2\hat{H}^{(0)}\right]| l_1l_2 \rangle\\
&\ = \frac{1}{i\hbar}\cos(\omega t) \left( E^{(0)}_{m_1m_2} – E^{(0)}_{l_1l_2} \right) \langle m_1 m_2|(x_1 + x_2)| l_1l_2
\rangle \\
&\ = \frac{1}{i\hbar}\cos(\omega t) \left( E^{(0)}_{m_1m_2} – E^{(0)}_{l_1l_2} \right) \int_{-\frac{R}{2}-\frac{L}{2}}^{-\frac{R}{2}+\frac{L}{2}} dx_1\int_{\frac{R}{2}-\frac{L}{2}}^{\frac{R}{2}+\frac{L}{2}}dx_2 \psi_{m_1m_2}^*(x_1, x_2)(x_1 + x_2)\psi_{l_1l_2}(x_1, x_2)\\
&\ \equiv \frac{1}{i\hbar}\cos(\omega t) \left( E^{(0)}_{m_1m_2} – E^{(0)}_{l_1l_2} \right) K^{m_1m_2}_{l_1l_2}
\end{align}

この $K^{m_1m_2}_{l_1l_2}$ は時間に依存しないので1度計算すれば良いね。この $K^{m_1m_2}_{l_1l_2}$ を用いると先の連立微分方程式は次のようになるよ。

\begin{align}
i\hbar \frac{d b_{m_1m_2}(t) }{d t} = E^{(0)}_{m_1m_2} b_{m_1m_2}(t) + \frac{e A_0}{i\hbar} \cos(\omega t) \sum\limits_{l_1 l_2} b_{l_1l_2}(t) \left( E^{(0)}_{m_1m_2} – E^{(0)}_{l_1l_2} \right)K^{m_1m_2}_{l_1l_2}
\end{align}

電磁波の角振動数が2準位間のエネルギー差 $\Delta E = E^{(0)}_{m_1m_2} – E^{(0)}_{l_1l_2}$ と表して $\omega = \Delta E / \hbar$ となるときに、2準位間を周期的に遷移するね。$\Delta E = E^{(0)}_{11} – E^{(0)}_{10}$ を与えることで、制御・NOT演算となることを次回シミュレーションするよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(15)2つの独立した量子井戸に束縛された電子の基礎実験3:クーロン相互作用+静電場(2重量子井戸)


前回、電子同士のクーロン相互作用を考慮した独立した2つの2重量子井戸の電子の固有状態を計算したね。今回はさらに静電場を加えるね。壁の幅と高さは、$W = L/5= 2.0 \times 10^{-9} [{\rm m}] = 2.0[{\rm nm}]$、$V_0 = 3.0[{\rm eV}]$ として、量子井戸の間隔は $R = 20.0[{\rm nm}]$ とするよ。次の結果は、静電場の大きさを $E_x = 0.1\times10^{6}[{\rm V/m}]$ から $1.0\times10^{6}[{\rm V/m}]$ まで $ 0.05\times10^{6}[{\rm V/m}]$ づつ強くしたときの基底状態から第3励起状態までの電子存在確率の空間分布だよ。想定通りだけれども、ちょっとした静電場で第1励起状態と第2励起状態の縮退が解けて、2重量子井戸の壁の左右に分かれる形になったね。それぞれの量子井戸の左に電子がいる状態を $|0\rangle$、右にいる状態を$|1\rangle$ と表すと、それぞれの電子状態は固有エネルギーが低い順番に $|01\rangle, |00\rangle, |10\rangle, |11\rangle$ と表わすことができるね。



次の図は、上記の固有状態に対応するエネルギー準位の静電場の強度 $E_x$ 依存性だよ。想定通り、電場強度に比例して第1励起状態と第2励起状態の縮退が解けていく様子がわかるね。まさにシュタルク効果だね。今回は、エネルギー準位とは関係せずに電子が左か右かで $|0\rangle, |1\rangle$ を定義したけれども、エネルギー準位を基準として、2つの量子井戸の外側と内側で $|0\rangle, |1\rangle$ を定義すれば、固有エネルギーの低い順に $|00\rangle, |01\rangle, |10\rangle, |11\rangle$ と並ばせることもできるね。そして、下図の $\Delta E$ に対応する電磁波を外部から照射すれば、ラビ振動で $|10\rangle$ と $|11\rangle$ の状態遷移を起こすことができるので、制御・NOT演算が実現できるね。

次回は実際にラビ振動をシミュレーションして、制御・NOT演算を確かめてみよう!


【量子コンピュータを作ろう!】(14)2つの独立した量子井戸に束縛された電子の基礎実験2:クーロン相互作用(2重量子井戸)

前回、2つの独立した量子井戸の電子同士のクーロン相互作用を考慮した固有状態を計算したね。今回は、静電場を加える前に、量子井戸を右図のような2重量子井戸にした場合の固有状態を計算しておくね。壁の幅と高さは第9回の結果を踏まえて、$W = L/5= 2.0 \times 10^{-9} [{\rm m}] = 2.0[{\rm nm}]$、$V_0 = 3.0[{\rm eV}]$ とするよ。次の結果は、2つの量子井戸の間隔を $R = 11[{\rm nm}]$ から $ 30 [{\rm nm}]$ まで $ 1 [{\rm nm}]$ づつ広げていったときの基底状態から第3励起状態までの電子存在確率の空間分布だよ。間に壁を作ったことで、クーロン相互作用の反発があるにも関わらず、波形が綺麗になったね。



次の図は、上記の固有状態に対応するエネルギー準位の量子井戸間の距離 $R$ 依存性だよ。図中の①~⑥はそれぞれの $R$ に対してエネルギーが低い順(基底状態、第1励起状態、・・・、第5励起状態)だけれども、興味深いのは、$R \sim 1.8 [{\rm nm}]$ 近傍でエネルギー準位が交差しているね。この距離よりも大きい場合に、クーロン相互作用を考慮しない場合と同様の状況(基底状態:縮退なし、第1励起状態と第2励起状態が縮退、第3励起状態:縮退なし)を作れるね。つまり、2つの量子井戸の間隔がある程度離れていないと、クーロン相互作用が強すぎることを意味しているね。

先の固有状態のうち、$R = 2.0 [{\rm nm}]$ だけの、基底状態から第三励起状態までを並べたのが次の結果だよ。先にも言ったけれども、クーロン相互作用があるようには思えないほど波形が綺麗だね。基底状態と第3励起状態で電気双極子モーメントが反対向き、第1励起状態と第2励起状態で電気双極子モーメントは0になっているね。



次回はこの状態に静電場を加えてみるね。


【量子コンピュータを作ろう!】(13)2つの独立した量子井戸に束縛された電子の基礎実験1:クーロン相互作用


本稿では、2量子ビットの量子ゲートを作るための基礎実験として、右図のような2つの量子井戸に束縛された2個の電子の固有状態を計算するよ。電子が入れ替わらない場合、2電子の波動関数はそれぞれの量子井戸内の固有状態の積で表すことができるね。つまり、それぞれの量子井戸の固有関数を計算するための正規直交系を

\begin{align}
\varphi_{n_1}(x_1) &\ = \sqrt{\frac{2}{L}}\sin\left[ k_{n_1} \left( x_1 + \frac{R}{2} + \frac{L}{2}\right)\right] \ , \
k_{n_1} = \frac{\pi(n_1+1)}{L} \\
\varphi_{n_2}(x_2) &\ = \sqrt{\frac{2}{L}}\sin\left[ k_{n_2} \left( x_2 – \frac{R}{2} + \frac{L}{2}\right)\right] \ , \
k_{n_2} = \frac{\pi(n_2+1)}{L} \\
\end{align}

と表した場合、2電子状態の固有関数は、先の正規直交系の積

\begin{align}
\varphi_{n_1n_2}(x_1, x_2) = \varphi_{n_1}(x_1)\varphi_{n_2}(x_2)
\end{align}

を用いて次のように展開することができるね。

\begin{align}
\psi(x_1, x_2) = \sum\limits_{n_1n_2} a_{n_1n_2} \varphi_{n_1n_2}(x_1, x_2)
\end{align}

これまでと同様、この系に対するハミルトニアンは

\begin{align}
\hat{H} = -\frac{\hbar^2}{2m_e}\, \frac{\partial^2}{\partial x_1^2} -\frac{\hbar^2}{2m_e}\, \frac{\partial^2}{\partial x_2^2} + \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\,\frac{1}{|x_1-x_2|} \equiv \hat{H}^{(0)}_1 + \hat{H}^{(0)}_2 +\hat{V}_{12}
\end{align}

なので、シュレーディンガー方程式

\begin{align}
\hat{H}\psi(x_1, x_2) = E \psi(x_1, x_2)
\end{align}

に代入して、$\varphi_{m_1m_2}^*(x_1, x_2)$ を両辺に掛けて全空間で積分すると

\begin{align}
(E^{(0)}_{m_1} + E^{(0)}_{m_2})a_{m_1m_2} + \sum\limits_{n_1n_2} a_{n_1n_2} \langle m_1,m_2| \hat{V}_{12} | n_1, n_2\rangle = E a_{m_1m_2}
\end{align}

と、いつもどおり固有値方程式が得られるね。ただし、

\begin{align}
E^{(0)}_{m_1} = \frac{\hbar^2k^2_{m_1}}{2m_e} \ &\ , \ E^{(0)}_{m_2} = \frac{\hbar^2k^2_{m_2}}{2m_e} \\
\langle m_1,m_2| \hat{V}_{12} | n_1, n_2\rangle &\ \equiv \int_{-\frac{R}{2}-\frac{L}{2}}^{-\frac{R}{2}+\frac{L}{2}} dx_1\int_{\frac{R}{2}-\frac{L}{2}}^{\frac{R}{2}+\frac{L}{2}} dx_2 \varphi_{m_1m_2}^*(x_1, x_2) V_{12} \varphi_{n_1n_2}(x_1, x_2)
\end{align}

だよ。この固有値方程式を解いて得られた固有ベクトルがそのまま先の展開係数 $a_{n_1n_2}$ となるね。最後に波動関数から得られる電子の存在確率は次のとおりだよ。

\begin{align}
\rho(x) = \left\{ \matrix{ 0 & x <-\frac{R}{2} - \frac{L}{2} \cr \int_{\frac{R}{2}-\frac{L}{2}}^{\frac{R}{2}+\frac{L}{2}} |\psi(x, x_2)|^2 dx_2 & -\frac{R}{2} - \frac{L}{2} \le x \le -\frac{R}{2} + \frac{L}{2} \cr 0 & -\frac{R}{2} + \frac{L}{2} < x < \frac{R}{2} - \frac{L}{2} \cr \int_{-\frac{R}{2}-\frac{L}{2}}^{-\frac{R}{2}+\frac{L}{2}} |\psi(x_1, x)|^2 dx_1 & \frac{R}{2} - \frac{L}{2} \le x \le \frac{R}{2} + \frac{L}{2} \cr 0 & \frac{R}{2} + \frac{L}{2} < x} \right. \end{align}

計算結果:2つの量子井戸の間隔依存性

まずリファレンスとして、クーロン相互作用が存在しない場合を示しておくよ。次の4つの図は量子井戸の幅 $L=10.0\times10^{-9} [{\rm m}]= 10[{\rm nm}]$、量子井戸の間隔 $R = 12[{\rm nm}]$ とした場合の基底状態から第3励起状態までの電子存在確率の空間分布だよ。独立した2つの量子井戸内の電子が想定通りに空間分布していることが確認できるね。ちなみに第1励起状態と第2励起状態はこの場合、エネルギー固有値は同じなので縮退しているよ。




続いて、先の電子間にクーロン相互作用が存在する場合の空間分布を示すよ。次の4つの図は量子井戸の幅 $L=10.0\times10^{-9} [{\rm m}]= 10[{\rm nm}]$ に固定して、2つの量子井戸の間隔を $R = 11[{\rm nm}]$ から $ 30 [{\rm nm}]$ まで $ 1 [{\rm nm}]$ づつ広げていったときの基底状態から第3励起状態までの電子存在確率の空間分布だよ。クーロン相互作用で電子は反発するので、電子分布は原点で空間対称となるね。間隔が狭いほど相互作用が無い場合と比較して量子井戸の右側だけとか左側だけとかが変化しているわけではないね。



最後に、下から6つのエネルギー準位の量子井戸間隔に対する依存性を示しておくよ。間隔が広がるほど電子間に働くクーロン相互作用に大きさは反比例して小さくなっていくので、エネルギーも反比例して小さくなっていくね。そして、第1励起状態と第2励起状態、第4励起状態と第5励起状態は縮退していくね。

次回は、これに静電場を加えてみるね。本当に電気双極子モーメントは発生するのだろうか?ちょっと心配になってきたね。


【量子コンピュータを作ろう!】(12)2つの独立した量子ドットに束縛された電子2個による2量子ビットの表現と2量子ビット万能量子ゲート


前回までで、1量子ビットを表現する量子井戸に束縛された電子の振る舞いを大体シミュレーションすることができたね。今回は、この量子井戸を2つ並べて2量子ビットとして利用するための表現方法と、2量子ビットの万能量子ゲートとして動作させるための動作原理についてまとめるよ。2量子ビットの表現を考える前にちょっと電磁気学の復習するよ。1つの量子ドットに束縛された電子に外部からx軸方向に静電場を加えた場合、電子が基底状態($| 0\rangle$)に存在する場合には電子は左に分布し、励起状態($| 1\rangle$)に存在する場合には電子は右に分布するんだったね(参照:(10)2重量子ドットに束縛された電子に静電場を加えたときの固有状態の計算結果)。この電子分布の偏りは第1次近似として次式で定義される電気双極子モーメント

\begin{align}
\boldsymbol{p}_E^{(1)} \equiv \int \boldsymbol{r}_1 \rho(\boldsymbol{r}_1) d\boldsymbol{r}_1 = \left\{ \matrix{ +\boldsymbol{p}_E & \cdots |0\rangle \cr -\boldsymbol{p}_E & \cdots|1\rangle }\right.
\end{align}

で表すことができるね。電気双極子モーメントは基底状態の場合は電気双極子が正の方向、励起状態の場合には負の方向に向くね。2つ目の量子井戸でも同様に

\begin{align}
\boldsymbol{p}_E^{(2)} &\ \equiv \int \boldsymbol{r}_2 \rho(\boldsymbol{r}_2) d\boldsymbol{r}_2 = \left\{ \matrix{ +\boldsymbol{p}_E & \cdots |0\rangle \cr -\boldsymbol{p}_E & \cdots|1\rangle }\right.
\end{align}

と表すことができるね。一般に2つの電気双極子モーメントが存在する場合、片方からもう片方への位置ベクトルを $\boldsymbol{R}$ として、相互作用によるポテンシャルエネルギーは

\begin{align}
U_E(\boldsymbol{R}) = \frac{1}{4\pi \epsilon_0}\, \frac{\boldsymbol{p}_E^{(1)}\cdot\boldsymbol{p}_E^{(2)}}{R^3} – \frac{3}{4\pi \epsilon_0}\, \frac{(\boldsymbol{p}_E^{(1)}\cdot\boldsymbol{R}) (\boldsymbol{p}_E^{(2)}\cdot\boldsymbol{R})}{R^5}
\end{align}

となるね。今回のように $\boldsymbol{R}$ の方向と電気双極子モーメントの向きが一直線の場合、

\begin{align}
U_E(R) = -\frac{1}{2\pi \epsilon_0}\, \frac{p_E^{(1)}p_E^{(2)}}{R^3} \equiv \mp \Delta U
\end{align}

となるので、電気双極子モーメントの向きが平行の場合には一致する場合にはエネルギーは $\Delta U$ 下がり、反対に向きが反平行の場合にエネルギーは $\Delta U$ 上がるね。この事実を用いて2量子ビットの量子ゲートを設計することができよ。

2量子ビットの量子状態の表現

1量子ビットの場合、量子井戸の基底状態と励起状態の固有関数の具体的な関数形は考えずに、それぞれケットを用いて $|0\rangle$ , $|1\rangle$ と表せることをはすでに解説したね。2量子ビットの場合、1つ目の「0」or「1」を第1量子ビットの状態、2つ目の「0」or「1」を第2量子ビットの状態として、$|0\rangle \otimes |0\rangle$ , $|0\rangle \otimes |1\rangle$ , $|1\rangle \otimes |0\rangle$ , $|1\rangle \otimes |1\rangle$ と表すことができるよ。「$\otimes$」は数学的には直積と呼ばれ、「$\otimes$」の前後の異なる座標系の状態をつなぐ役割を果たすよ。なお、「$\otimes$」を毎回書くのが煩わしい場合は、「$\otimes$」を省略して、$|00\rangle$, $|01\rangle$, $|10\rangle$, $|11\rangle$ とも表すよ。

電気双極子モーメント演算子と相互作用演算子

先に解説したとおり、量子井戸の基底状態と励起状態のどちらに存在するかによって、電気双極子モーメントの向きが異なるね。状態 $|0\rangle$ と $|1\rangle$ に作用する電気双極子モーメント演算子 $\hat{\boldsymbol{p}}_E$ を次のように定義するよ。

\begin{align}
\hat{\boldsymbol{p}}_E |0\rangle &\ = +\boldsymbol{p}_E |0\rangle \\
\hat{\boldsymbol{p}}_E |1\rangle &\ = -\boldsymbol{p}_E |1\rangle
\end{align}

この電気双極子モーメント演算子は2つの量子井戸の電子それぞれ個別に作用するので、先の2量子ビットの量子状態の表現を用いると

\begin{align}
\hat{\boldsymbol{p}}_E \otimes \hat{\boldsymbol{p}}_E |00\rangle &\ = +\boldsymbol{p}_E^2 |00\rangle \\
\hat{\boldsymbol{p}}_E \otimes \hat{\boldsymbol{p}}_E |01\rangle &\ = -\boldsymbol{p}_E^2 |01\rangle \\
\hat{\boldsymbol{p}}_E \otimes \hat{\boldsymbol{p}}_E |10\rangle &\ = -\boldsymbol{p}_E^2 |10\rangle \\
\hat{\boldsymbol{p}}_E \otimes \hat{\boldsymbol{p}}_E |11\rangle &\ = +\boldsymbol{p}_E^2 |11\rangle \\
\end{align}

と計算することができるよ。つまり、電気双極子モーメント同士の相互作用を表す演算子 $V_E$は

\begin{align}
V_E = -\frac{1}{2\pi \epsilon_0}\, \frac{\hat{\boldsymbol{p}}_E \otimes \hat{\boldsymbol{p}}_E}{R^3}
\end{align}

と表すことができるね。

2量子ビットのハミルトニアン

電気双極子モーメントの相互作用演算子を定義できたので、あとはそれぞれの量子井戸の電子単体のハミルトニアンを考えるだけだね。$\hat{H}_1$ と $\hat{H}_2$ はそれぞれの量子井戸中の電子に静電場が加えられたときのハミルトニアンとして、第1量子ビットと第2量子ビットの基底状態エネルギーをそれぞれ $E_1^{(0)}$ と $E_2^{(0)}$、励起状態のエネルギーをそれぞれ $E_1^{(1)}$ と $E_2^{(1)}$ と表した場合、次のような固有状態とあらすことができるね。

\begin{align}
(\hat{H}_1 \otimes \boldsymbol{1} + \boldsymbol{1} \otimes\hat{H}_2 ) |00\rangle &\ = (E_1^{(0)} + E_2^{(0)}) |00\rangle\\
(\hat{H}_1 \otimes \boldsymbol{1} + \boldsymbol{1} \otimes\hat{H}_2 ) |10\rangle &\ = (E_1^{(1)} + E_2^{(0)}) |10\rangle\\
(\hat{H}_1 \otimes \boldsymbol{1} + \boldsymbol{1} \otimes\hat{H}_2 ) |01\rangle &\ = (E_1^{(0)} + E_2^{(1)}) |01\rangle\\
(\hat{H}_1 \otimes \boldsymbol{1} + \boldsymbol{1} \otimes\hat{H}_2 ) |11\rangle &\ = (E_1^{(1)} + E_2^{(1)}) |11\rangle
\end{align}

このハミルトニアンに先の電気双極子モーメントの相互作用演算子を加えると、ハミルトニアン $\hat {H}$ が完成するね。

\begin{align}
\hat {H} &\ = \hat{H}_1 \otimes \boldsymbol{1} + \boldsymbol{1} \otimes\hat{H}_2 + \hat{V}_E \\
\hat{V}_E &\ = -\frac{1}{2\pi \epsilon_0}\, \frac{\hat{\boldsymbol{p}}_E \otimes \hat{\boldsymbol{p}}_E}{R^3}
\end{align}

2量子ビットの量子状態はこのハミルトニアンの固有状態となっているよ。

\begin{align}
\hat {H} |00\rangle &\ = (E_1^{(0)} + E_2^{(0)} – \Delta U_E) |00\rangle\\
\hat {H} |10\rangle &\ = (E_1^{(1)} + E_2^{(0)} + \Delta U_E) |10\rangle\\
\hat {H} |01\rangle &\ = (E_1^{(0)} + E_2^{(1)} + \Delta U_E) |01\rangle\\
\hat {H} |11\rangle &\ = (E_1^{(1)} + E_2^{(1)} – \Delta U_E) |11\rangle
\end{align}

2量子ビット万能量子ゲートについて


2量子ビット量子ゲートとは、2つの量子ビットの状態を入力とし、変化した2つの量子ビットの状態を出力とみなす素子を抽象化した表現だよ。右図のAとBが入力前の量子ビットの状態を表していて、A’とB’が変化後の量子ビットの状態を表しているよ。A, B, A’, B’ はそれぞれ $|0\rangle$ と $|1\rangle$ の任意の重ね合わせで与えられるよ。このような2量子ビット量子ゲートで最も重要なのは、A, B, A’, B’ の関係が下の真理値表で表される「制御・NOT演算(CNOT)ゲート」と呼ばれる量子ゲートだよ。

A B
0 0
0 1
1 0
1 1
A’ B’
0 0
0 1
1 1
1 0

制御・NOT演算ゲートは、入力Aが $0$ の場合はBには何の変化もなく、入力 A が $1$ の場合は入力された B のビットを反転(NOT演算)させるよ。論理式で表すと

\begin{align}
A’&\ =A\\
B’&\ = A \otimes B
\end{align}

となるよ。この場合の「$\otimes$」は排他的論理和を表す記号で、先の直積とは違う意味だよ。そして実は、制御・NOT演算ゲートは複数組み合わせることで2量子ビットで構成される論理ゲートをすべて表現することができるんだよ!そのため、制御・NOT演算ゲートは2量子ビットの万能量子ゲートとも呼ばれるよ。2量子ビットの状態をケットベクトル

\begin{align}
|00\rangle = \left( \matrix{ 1\cr 0 \cr 0 \cr 0} \right) , |01\rangle = \left( \matrix{ 0\cr 1 \cr 0 \cr 0} \right), |10\rangle = \left( \matrix{ 0\cr 0 \cr 1 \cr 0} \right) , |11\rangle = \left( \matrix{ 0\cr 0 \cr 0 \cr 1} \right)
\end{align}

で表した場合、制御・NOT演算ゲート(CNOT)は

\begin{align}
{ \rm CNOT} = \left( \matrix{ 1& 0& 0&0 \cr 0&1 &0 & 0 \cr 0 & 0 & 0 & 1 \cr 0 & 0 &1& 0} \right)
\end{align}

と表すことができるね。実際に上記の真理値表を満たしていることが確認できるね。

\begin{align}
{\rm CNOT} |00\rangle &\ = |00\rangle\\
{\rm CNOT} |01\rangle &\ = |01\rangle\\
{\rm CNOT} |10\rangle &\ = |11\rangle\\
{\rm CNOT} |11\rangle &\ = |10\rangle\\
\end{align}

制御・NOT演算ゲートの動作原理

次に2量子ビット万能量子ゲートである制御・NOT演算ゲートを、2つの量子井戸を用いて具体的にどのようにして作ることができるのか解説するよ。本稿の前半で示したとおり、静電場が加えられた量子井戸中の電子は、基底状態($|0\rangle$)と励起状態($|1\rangle$)で異なる向きの電気双極子モーメントをもつので、相互作用の結果、第1量子井戸の電子状態が $|0\rangle$ か $|1\rangle$ によって、第2量子井戸の基底状態のと励起状態のエネルギー準位は変化するね。具体的には、第1量子井戸の電子状態が $|0\rangle$ の場合には第2量子井戸のエネルギーギャップは広がり、反対に第1量子井戸の電子状態が $|1\rangle$ の場合には第2量子井戸のエネルギーギャップは狭まるね。次の図はその模式図だよ。

一方、エネルギーギャップに対応する電磁波を入射すると、これまでに何度か示したラビ振動を引き起こすことができるんだったね。つまり、狭まったエネルギーギャップ($\Delta E_2$)に相当する電磁波を入射すると、第1量子井戸の電子状態が $|0\rangle$ の場合には変化しないけれども、第1量子井戸の電子状態が $|0\rangle$ の場合には第2量子井戸の状態をラビ振動させることができるので、入射時間を適切にコントロールすることで、制御・NOT演算ゲートと同じ動作をさせることができるね。

制御・NOT演算ゲートに対応するハミルトニアンと計算方法

以上から2つの量子井戸に束縛された電子を量子ビットとして用いた場合の制御・NOT演算ゲートに対応するハミルトニアンは次のような式に与えられる。

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_1 \otimes \boldsymbol{1} + \boldsymbol{1} \otimes \hat{H}_2 + \hat{V}_E + \boldsymbol{1} \otimes \hat{V}_A(t)
\end{align}

$\hat{H}_1$ と $\hat{H}_2$ は電子の運動エネルギーと外部静電場によるポテンシャル項をあわせたもの、$\hat{V}_E$ は電気双極子モーメントによる相互作用項、$\hat{V}_A(t)$ は第2量子井戸に入射する電磁波との相互作用項だよ。この内、時間に依存する項は最後の $\hat{V}_A(t)$ だけだね。実際にシミュレーションするには、任意の状態 $\psi(t)\langle$ を

\begin{align}
|\psi(t)\rangle = a_{00}(t)|00\rangle + a_{01}(t)|01\rangle + a_{10}(t)|10\rangle + a_{11}(t)|11\rangle \equiv \sum\limits_{n=0} a_n (t) |n\rangle
\end{align}

と展開しておいて、時間に依存するシュレーディンガー方程式

\begin{align}
i\hbar \frac{d}{dt}|\psi(t)\rangle = \hat{H}|\psi(t)\rangle
\end{align}

に代入して、左から $\langle m |$ を掛けて得られる連立微分方程式

\begin{align}
i\hbar \frac{d a_{m}(t)}{dt} \, = \sum\limits_{n=0} \langle m |\hat{H}|n\rangle a_n(t)
\end{align}

を計算すればいいね。次回は実際に計算を行うけれども、その前に上記のハミルトニアンは重要な近似がなされているのがちょっと気になるね。というのも、2つの電子同士の相互作用を電気双極子モーメントの相互作用だけを取り込んでいる点が不満だね。やはりできるだけ第一原理的にやりたいので、$V_E$ をクーロンポテンシャル

\begin{align}
\hat{V}_E = \frac{1}{4\pi \epsilon_0}\, \frac{1}{|x_1 – x_2|}
\end{align}

として、まずは2つの量子井戸の電子相互作用を踏まえた固有状態を計算してみるね。


【量子コンピュータを作ろう!】(11)量子ドットに束縛された電子2個に対するハミルトニアンと計算方法(失敗)


今回から2量子ビットを作るための方法を考えていくね。本稿ではその第一歩として1個の量子ドットに2個の電子を投入したときの固有状態を計算するための計算方法を解説するよ。電子のようにスピンが1/2の粒子が複数個存在する場合、スピン座標を含めて波動関数の座標を交換すると反対称(符号が反転)することが知られているよ(ディラック方程式より)。スピンが1/2の電子のような粒子は、スピン演算子の特定成分の固有値が $\pm\hbar/2$ の2つのなるので、$+$ 符号を上向き、$-$ 符号を下向きと表すことが多いいね。2個の粒子のスピンが同じ向き(平行スピン)の場合には波動関数全体で反平行になる必要があるので空間部分は反対称になるのに対して、2個の粒子のスピンが反対向き(反平行スピン)の場合には空間部分は対称になる必要があるね。1粒子の波動関数をこれまでと同じ

\begin{align}
\varphi_n(x) = \sqrt{\frac{2}{L}} \sin\left[ k_n (x + \frac{L}{2}) \right] \ , \ E^{(0)}_n = \frac{\hbar^2 k_n^2}{2m_e} \ , \ k_n = \frac{\pi(n+1)}{L}
\end{align}

と表した場合、2個の電子の空間対称関数($\varphi^{(S)}$)と空間反対称関数($\varphi^{(A)}$)は2つの電子位置を $x_1$ と $x_2$ として、それぞれ次のように表されるよ。

\begin{align}
\varphi^{(S)}_{n_1n_2}(x_1,x_2) &\ = \frac{1}{\sqrt{2}} \left[ \varphi_{n_1}(x_1)\varphi_{n_2}(x_2) + \varphi_{n_1}(x_2)\varphi_{n_2}(x_1) \right]\\
\varphi^{(A)}_{n_1n_2}(x_1,x_2) &\ = \frac{1}{\sqrt{2}} \left[ \varphi_{n_1}(x_1)\varphi_{n_2}(x_2) – \varphi_{n_1}(x_2)\varphi_{n_2}(x_1) \right]
\end{align}

空間対称関数の場合、$x_1$ と $x_2$ を入替えても変化しないのに対して、空間反対称関数の場合、座標を入替えると符号がマイナスになるね。ただし、$n_1 = n_2$ の場合、空間対称関数の場合の係数は $1$ とする必要があることと、反対称関数の場合には関数値が $0$ になることに注意が必要だね。もし2個の電子が相互作用をしない場合、基底状態は空間対称関数(反平行スピン)で $n_1=n_2=0$ の場合だね。

\begin{align}
\varphi^{(S)}_{00}(x_1,x_2) = \varphi_{0}(x_1)\varphi_{0}(x_2)
\end{align}

第一励起状態は空間反対称関数(平行スピン)で $n_1=1, n_2=0$ あるいは $n_1=0, n_2=1$ の場合だね。

\begin{align}
\varphi^{(A)}_{10}(x_1,x_2) &\ = \frac{1}{\sqrt{2}} \left[ \varphi_{1}(x_1)\varphi_{0}(x_2) – \varphi_{0}(x_2)\varphi_{1}(x_1) \right]\\
\varphi^{(A)}_{01}(x_1,x_2) &\ = \frac{1}{\sqrt{2}} \left[ \varphi_{0}(x_1)\varphi_{1}(x_2) – \varphi_{1}(x_2)\varphi_{0}(x_1) \right]
\end{align}

両者とも単に符号が反転しているだけなので、同じ関数を表しているよ。

電子間のクーロン力を考慮した場合のハミルトニアンと固有状態の計算方法

電子は同符号の電荷を持っているので互いに反発するね。そのため、基底状態は先に示したような簡単な形にはならないね。クーロン力を考慮した場合の2個の電子に対するハミルトニアンは次のとおりだよ。

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_1 + \hat{H}_2 + V(|x_1-x_2|)= -\frac{\hbar^2}{2m_e}\, \frac{\partial^2}{\partial x_1^2} -\frac{\hbar^2}{2m_e}\, \frac{\partial^2}{\partial x_2^2} + \frac{1}{4\pi\epsilon_0} \, \frac{1}{|x_1 – x_2|}
\end{align}

前の2項はそれぞれの電子の運動エネルギー、最後の項は相互作用を表しているね。このハミルトニアンの固有関数を $\psi^{(S)}(x_1, x_2)$(空間対称関数)、$\psi^{(A)}(x_1, x_2)$(空間反対称関数)と表した場合のシュレディンガー方程式は

\begin{align}
\hat{H} \psi^{(S)}(x_1, x_2) &\ = E \psi^{(S)}(x_1, x_2) \\
\hat{H} \psi^{(A)}(x_1, x_2) &\ = E \psi^{(A)}(x_1, x_2)
\end{align}

だね。この $\psi(x_1, x_2)$ は正規直交系である $\varphi^{(S)}_{n_1n_2}$ あるいは $\varphi^{(A)}_{n_1n_2}$ で展開できるはずなので、次のように表すことができるよ。

\begin{align}
\psi^{(S)}(x_1, x_2) &\ = \sum\limits_{n_1,n_2} a_{n_1n_2}\, \varphi^{(S)}_{n_1n_2}(x_1, x_2) \\
\psi^{(A)}(x_1, x_2) &\ = \sum\limits_{n_1,n_2} a_{n_1n_2}\, \varphi^{(A)}_{n_1n_2}(x_1, x_2)
\end{align}

ちなみに空間対称関数と反対称関数は直交するため混じり合うことは無いよ。ここからはいつもの常套手段でいくよ。この固有関数をハミルトニアンに代入して、両辺に $\varphi^{(S)*}_{n_1n_2}(x_1, x_2)$ あるいは $\varphi^{(A)*}_{m_1m_2}(x_1, x_2)$ を掛け算して全空間で積分すると

\begin{align}
a_{m_1m_2} ( E_{n_1}^{(0)} + E_{n_2}^{(0)}) + \sum\limits_{n_1,n_2} \langle m_1m_2|V(|x_1-x_2|)| n_1 n_2 \rangle a_{n_1n_2} = E a_{m_1m_2}
\end{align}

となるね。これは展開係数 $a_{m_1m_2}$ についての連立方程式となっているよ。対称性と反対称性の違いはブラ・ケット表記で表した積分

\begin{align}
\langle m_1m_2|V(|x_1-x_2|)| n_1 n_2 \rangle a_{n_1n_2} \equiv \left\{ \matrix{ \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}}\int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \varphi^{(S)*}_{m_1m_2}(x_1, x_2) V(|x_1-x_2|) \varphi^{(S)}_{n_1n_2}(x_1, x_2)dx_1dx_2 \cr \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}}\int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \varphi^{(A)*}_{m_1m_2}(x_1, x_2) V(|x_1-x_2|) \varphi^{(A)}_{n_1n_2}(x_1, x_2)dx_1dx_2 } \right.
\end{align}

に違いが現れるね。次回は実際に固有状態を計算するよ。

追記:2019.07.16

同じ量子井戸に2個の電子を配置する場合、上記のような展開では積分が発散してしまうため、計算不能となってしまうね。発散を抑えられる正規直交展開にしないといけないけれども、どうしてもうまくいかないので、この方法は一度断念するね。


【量子コンピュータを作ろう!】(10)2重量子ドットに束縛された電子に静電場を加えたときの固有状態の計算結果(シュタルク効果)


前回計算した2重量子ドットに束縛された電子の固有状態にさらに外部から静電場を加えたときの様子をシミュレーションするよ(静電場の向き:x軸の正方向)。電子分布が偏ってエネルギー準位がシフトするシュタルク効果が期待できるね。2重井戸の場合はどんな形になるのかな。ハミルトニアンのポテンシャル項は次のとおりだよ。

\begin{align}
V(x) = \left\{ \matrix{ \infty & x \leq -\frac{L}{2} \cr e E_x x & -\frac{L}{2} \leq x\leq -\frac{W}{2} \cr V & -\frac{W}{2}
\leq x\leq \frac{W}{2} \cr e E_x x& \frac{W}{2} \leq x\leq \frac{L}{2} \cr \infty & \frac{L}{2} \leq x} \right.
\end{align}

なお、具体的なパラメータとして、量子井戸全体のサイズを $L = 10[{\rm nm}]$、真ん中の壁のサイズを $W = 2[{\rm nm}]$、壁の高さを $0.3[{\rm eV}]$ として、静電場の強さを $0 \sim2.0\times10^{6}[{\rm V/m}]$ と $0.1$ ずつ変化させてみたよ。まずは、固有状態から見てみよう!

固有状態の空間分布

基底状態と第一励起状態

次の図は、静電場の強さを $0 \sim2.0\times10^{6}[{\rm V/m}]$ と $0.1$ ずつ変化させたときの基底状態(左)と第一励起状態(右)の空間分布だよ。静電場を少し加えただけで、電子は片端に偏っているね。ちょっとした外部静電場で電気双極子が生じていると言えるね。興味深いことに、真ん中に壁が無い場合の電気双極子と比較して、かなり弱い電場強度で同等の分極率(100倍)が得られているね(壁無し:$10\times10^{6}$ で基底状態のピーク位置が$2.7[{\rm nm}]$ 程度、壁有り:$0.1\times10^{6}$ でピーク位置が$2.7[{\rm nm}]$ 程度)。特に壁無しの第一励起状態は分極率は小さそうだったので、かなりの差だと言えるね。

第二励起状態と第三励起状態

次の図は、静電場の強さを $0 \sim2.0\times10^{6}[{\rm V/m}]$ と $0.1$ ずつ変化させたときの第二励起状態(左)と第三励起状態(右)の空間分布だよ。静電場を $0.3 \times10^{6}[{\rm V/m}]$程度加えただけで、電子は片端に偏っているね。基底状態に対してより強い電場が必要なのは、もともとエネルギーが高い状態だからだね。

エネルギー準位の静電場依存性

次の図は下から6つのエネルギー準位の壁の高さ依存性だけれども、通常のシュタルク効果と同様、静電場によって縮退している状態が解けて、電場強度に比例した大きさのエネルギーシフトが見られるね。先に示したとおり、僅かな静電場で電気双極子が得られるので、この2重量子井戸をそのまま1量子ビットに用いることで、量子ビット間の相互作用を強めることができる可能性があるね。

次回はいよいよ電子2個に進むよ。まずは1重の量子井戸に2個の電子を束縛したときの固有状態を計算するよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(9)2重量子ドットに束縛された電子の固有状態の計算結果


前回導出した2重量子ドットに束縛された電子の固有状態の計算方法を用いて計算した結果を示すよ。具体的なパラメータとして、量子井戸全体のサイズを $L = 10[{\rm nm}]$、真ん中の壁のサイズを $W = 2[{\rm nm}]$ として、壁の高さを $0 \sim 0.5[{\rm eV}]$ と $0.025$ ずつ変化させてみたよ。まずは、固有状態から見てみよう!

固有状態の空間分布

基底状態

次の図は、壁の高さを $0 \sim 0.5[{\rm eV}]$ と $0.025$ ずつ変化させたときの基底状態の空間分布だよ。壁の高さが高くなるほど電子分布のピークは両サイドの中心に移動していく様子が分かるね。ちなみに、基底状態の固有エネルギーは約 $0.004[{\rm eV}]$ だよ。

第一励起状態

次の図は、壁の高さを $0 \sim 0.5[{\rm eV}]$ と $0.025$ ずつ変化させたときの第一励起状態の空間分布だよ。壁の高さが高くなるほど電子分布のピークは両サイドの中心に移動していくけれども、もともと第一励起状態は sin関数的なので変化は小さいね。ちなみに、基底状態の固有エネルギーは $0.015[{\rm eV}]$ 程度だよ。

第二励起状態

次の図は、壁の高さを $0 \sim 0.5[{\rm eV}]$ と $0.025$ ずつ変化させたときの第二励起状態の空間分布だよ。基底状態と同様、壁の高さが高くなるほど電子分布のピークは両サイドの中心に移動していく様子が分かるね。ちなみに、基底状態の固有エネルギーは約 $0.034[{\rm eV}]$ だよ。

第三励起状態

次の図は、壁の高さを $0 \sim 0.5[{\rm eV}]$ と $0.025$ ずつ変化させたときの第三励起状態の空間分布だよ。第一励起状態と同様、壁の高さが高くなるほど電子分布のピークは両サイドの中心に移動していくけれども、もともと第三励起状態は sin関数的なので変化は小さいね。ちなみに、基底状態の固有エネルギーは約 $0.060[{\rm eV}]$ だよ。

エネルギー準位の壁の高さ依存性

先の固有状態からわかるとおり、壁の高さを高くするほど基底状態と第一励起状態、また第二励起状態と第三励起状態が一致していくね。これは、壁が高くなるほど、2つの領域はそれぞれ孤立していくことに起因するね。次の図は下から6つのエネルギー準位の壁の高さ依存性だけれども、このことはグラフにも現れているね。おおよそ壁の高さが $0.3[{\rm eV}]$ で基底状態と第一励起状態、第二励起状態と第三励起状態の固有エネルギーが概ね一致しているね。ちなみに、横の点線 $E_0=0.023[{\rm eV}]$ と $E_1=0.094[{\rm eV}]$ は、壁の高さが無限大とした場合の固有エネルギーの値だよ。

次回はさらに静電場を加えてみるよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(8)2重量子ドットに束縛された電子の固有状態の計算方法(改)


前回、各領域に分けて接続条件から固有状態を計算しようと考えたけれど、よく考えたらこの方法は考え方が間違っているね。特に、特定の壁の高さや幅でしか固有状態が存在しないって言う点は完全に間違いだね。「単一の波数だけで固有状態をなす」という意味では特定の壁の高さや幅でしか固有状態が存在しないというのは正しいけれども、てっきり解析的に固有状態が求まると思い込んでいたことが問題だったね。ということで、これまでと同様に、解を正規直交系で展開して固有値方程式を解く必要がありそうだね。

固有状態の計算方法

1次元井戸型ポテンシャルのハミルトニアンは

\begin{align}
\hat{H} = -\frac{\hbar^2}{2m_e}\, \frac{d^2}{d x^2} + V(x)
\end{align}

で表されるね。$V(x)$ は以下のとおりだよ。

\begin{align}
V(x) = \left\{ \matrix{ \infty & x \leq -\frac{L}{2} \cr 0 & -\frac{L}{2} \leq x\leq -\frac{W}{2} \cr V & -\frac{W}{2} \leq x\leq \frac{W}{2} \cr 0 & \frac{W}{2} \leq x\leq \frac{L}{2} \cr \infty & \frac{L}{2} \leq x} \right.
\end{align}

このハミルトニアンの固有状態 $\bar{\varphi}(x)$ を、真ん中に壁が存在しない場合の固有関数

\begin{align}
\varphi_n(x) = \sqrt{\frac{2}{L}}\sin\left[ k_n \left( x + \frac{L}{2}\right)\right] \ , \ k_n = \frac{\pi(n+1)}{2}
\end{align}

\begin{align}
\bar{\varphi}(x) = \sum\limits_{n=0} a_0 \varphi_n(x)
\end{align}

と展開することを考えるよ。この固有関数をシュレーディンガー方程式 $\hat{H} \bar{\varphi}(x) = E\bar{\varphi}(x)$ に代入して、両辺に $\varphi_m(x)^*$ を掛けて全空間で積分するよ。これまでと同様、展開係数 $a_m$ についての連立方程式が導かれるね。

\begin{align}
E_m a_m + \sum\limits_{n=0}\langle m |V(x)| n \rangle a_n = E a_m
\end{align}

ただし、

\begin{align}
\langle m |V(x)| n \rangle \equiv \int_{-\frac{L}{2}}^{\frac{L}{2}} \varphi_m(x)^* V(x) \varphi_n(x) dx
\end{align}

だよ。次回は固有関数を計算してみるよ。