【量子コンピュータを作ろう!】(17)2つの独立した2重量子井戸に束縛された電子による制御NOT演算計算結果



今回は、前回示したハミルトニアン(クーロン相互作用+静電場+電磁波)を用いて計算した結果を示すよ。上左図は前々回に示したエネルギー準位の静電場強度依存性だけれども、$|10\rangle$ と $|11\rangle$ のエネルギー差に対応した電磁波を入射して生じる状態遷移を計算するよ。ちなみにこれは、第1量子ビットが $|1\rangle$ のときに第2量子ビットを反転させる制御・NOT演算に対応しているよ。あとで示すけれども、2量子ビットのラビ振動は量子ビット同士が絡み合った量子もつれ(エンタングル)状態を任意に生成することができるよ。

遷移状態:$|10\rangle$ と $|11\rangle$ の存在確率の時間依存性

次のグラフは初期状態 $|10\rangle$ に角振動数 $\omega = \Delta E /\hbar$ の電磁波を入射したときの、$|11\rangle$ との状態遷移の様子だよ。ラビ振動の結果、2つの状態を三角関数的に行ったり来たりするね。$|10\rangle$ 100%の初期状態に約 $ 26.1[{\rm ns}]$ 照射すると、$|10\rangle$ と $|11\rangle$ の存在確率は50%つづとなり、さらに約 $ 26.1[{\rm ns}]$ 照射すると、反対に $|11\rangle$ 100% の状態になるね。ちょうど存在確率が反転する時間の光は「$\pi$パルス」って呼ばれるよ。

先にも言ったけれども、このラビ振動は2量子ビット同士が絡み合った量子もつれ状態を生み出すことができるね。例えば、$|10\rangle$ と基底状態の $|01\rangle$ のエネルギー差 $\Delta E_{01}^{11}$ として、角振動数 $\omega = \Delta E_{01}^{11} /\hbar$ の電磁波を $\pi$パルスの半分を入射すると、

\begin{align}
|\Psi(t)\rangle = \frac{1}{\sqrt{2}} \left[ |10\rangle + |01\rangle \right]
\end{align}

という状態を作ることができるね。これは単に $|10\rangle$ と $|01\rangle $ の存在確率が 50%づつっていうだけでなくて、第1量子ビットを観測したときに、第2量子を観測しなくてもその状態が100%の確率で分かるという量子もつれ状態となっているよ。具体的には、第1量子ビットが $|0\rangle$ の場合には第2量子ビットは必ず $|1\rangle$ に存在し、また反対に第1量子ビットが $|1\rangle$ の場合には第2量子ビットは必ず $|0\rangle$ に存在するよ。ちなみに、この量子井戸の間隔を量子状態が変化しないようにゆっくりと、どこまで離していっても成り立つよ。そのため、通信に利用することができると考えられているよ。その場合は、量子井戸による量子もつれではなく、光子をを用いた量子もつれを利用するよ。

制御NOT演算に対応する波動関数の時間発展

次の図はラビ振動による制御NOT演算時の波動関数の時間経過を示したアニメーションだよ。左の第1量子井戸は電子が右側( $|1\rangle$ )、第2量子井戸は電子が左側( $|0\rangle$ )と右側( $|1\rangle$ )を行ったり来たりしているね。

これで量子コンピュータの2量子ビットマシンの動作原理シミュレーションは完成したよ。


【量子コンピュータを作ろう!】(15)2つの独立した量子井戸に束縛された電子の基礎実験3:クーロン相互作用+静電場(2重量子井戸)


前回、電子同士のクーロン相互作用を考慮した独立した2つの2重量子井戸の電子の固有状態を計算したね。今回はさらに静電場を加えるね。壁の幅と高さは、$W = L/5= 2.0 \times 10^{-9} [{\rm m}] = 2.0[{\rm nm}]$、$V_0 = 3.0[{\rm eV}]$ として、量子井戸の間隔は $R = 20.0[{\rm nm}]$ とするよ。次の結果は、静電場の大きさを $E_x = 0.1\times10^{6}[{\rm V/m}]$ から $1.0\times10^{6}[{\rm V/m}]$ まで $ 0.05\times10^{6}[{\rm V/m}]$ づつ強くしたときの基底状態から第3励起状態までの電子存在確率の空間分布だよ。想定通りだけれども、ちょっとした静電場で第1励起状態と第2励起状態の縮退が解けて、2重量子井戸の壁の左右に分かれる形になったね。それぞれの量子井戸の左に電子がいる状態を $|0\rangle$、右にいる状態を$|1\rangle$ と表すと、それぞれの電子状態は固有エネルギーが低い順番に $|01\rangle, |00\rangle, |10\rangle, |11\rangle$ と表わすことができるね。



次の図は、上記の固有状態に対応するエネルギー準位の静電場の強度 $E_x$ 依存性だよ。想定通り、電場強度に比例して第1励起状態と第2励起状態の縮退が解けていく様子がわかるね。まさにシュタルク効果だね。今回は、エネルギー準位とは関係せずに電子が左か右かで $|0\rangle, |1\rangle$ を定義したけれども、エネルギー準位を基準として、2つの量子井戸の外側と内側で $|0\rangle, |1\rangle$ を定義すれば、固有エネルギーの低い順に $|00\rangle, |01\rangle, |10\rangle, |11\rangle$ と並ばせることもできるね。そして、下図の $\Delta E$ に対応する電磁波を外部から照射すれば、ラビ振動で $|10\rangle$ と $|11\rangle$ の状態遷移を起こすことができるので、制御・NOT演算が実現できるね。

次回は実際にラビ振動をシミュレーションして、制御・NOT演算を確かめてみよう!


【量子コンピュータを作ろう!】(14)2つの独立した量子井戸に束縛された電子の基礎実験2:クーロン相互作用(2重量子井戸)

前回、2つの独立した量子井戸の電子同士のクーロン相互作用を考慮した固有状態を計算したね。今回は、静電場を加える前に、量子井戸を右図のような2重量子井戸にした場合の固有状態を計算しておくね。壁の幅と高さは第9回の結果を踏まえて、$W = L/5= 2.0 \times 10^{-9} [{\rm m}] = 2.0[{\rm nm}]$、$V_0 = 3.0[{\rm eV}]$ とするよ。次の結果は、2つの量子井戸の間隔を $R = 11[{\rm nm}]$ から $ 30 [{\rm nm}]$ まで $ 1 [{\rm nm}]$ づつ広げていったときの基底状態から第3励起状態までの電子存在確率の空間分布だよ。間に壁を作ったことで、クーロン相互作用の反発があるにも関わらず、波形が綺麗になったね。



次の図は、上記の固有状態に対応するエネルギー準位の量子井戸間の距離 $R$ 依存性だよ。図中の①~⑥はそれぞれの $R$ に対してエネルギーが低い順(基底状態、第1励起状態、・・・、第5励起状態)だけれども、興味深いのは、$R \sim 1.8 [{\rm nm}]$ 近傍でエネルギー準位が交差しているね。この距離よりも大きい場合に、クーロン相互作用を考慮しない場合と同様の状況(基底状態:縮退なし、第1励起状態と第2励起状態が縮退、第3励起状態:縮退なし)を作れるね。つまり、2つの量子井戸の間隔がある程度離れていないと、クーロン相互作用が強すぎることを意味しているね。

先の固有状態のうち、$R = 2.0 [{\rm nm}]$ だけの、基底状態から第三励起状態までを並べたのが次の結果だよ。先にも言ったけれども、クーロン相互作用があるようには思えないほど波形が綺麗だね。基底状態と第3励起状態で電気双極子モーメントが反対向き、第1励起状態と第2励起状態で電気双極子モーメントは0になっているね。



次回はこの状態に静電場を加えてみるね。


【量子コンピュータを作ろう!】(4)量子ドットに束縛された電子に電磁波を加えたときの状態遷移の計算結果(ラビ振動)

前回、定式化した量子ドットに束縛された電子に電磁波を加えたときの計算結果を示すよ。量子井戸の横幅は $L = 10 \times 10^9 [{\rm m}]$( $=10[{\rm nn}]$ )としているよ。 次の図は、基底状態100%の初期状態の電子に、第一励起状態と基底状態のエネルギー差の電磁波を入射したときの時間依存性だよ。想定通り、ラビ振動として知られる2つの準位間をsin関数的に振動する様子がわかるね。

基底状態100%から励起状態100%まで遷移する時間間隔の電磁波パルスは、πパルスと呼ばれるよ。量子コンピュータの量子ビットを入れ替えるのに利用されるね。次回は、静電場を加えた電子に対して、ラビ振動をちゃんと起こせるかをチェックするよ。


水素原子の外場による光電効果の計算結果

この前導出した水素原子の外場による光電効果の計算方法に基づいて計算した結果を示すよ。入射した電磁場の波長は $ \lambda = 10\, a_B $ ( $a_B$ はボーア半径、 $ E= E = 2343[{\rm eV}] $)。長さ $L$ の箱内で定義される平面波で展開したせいか、飛び出したはずの電子が、外場の影響を受けてまた基底状態に戻るっていう結果になってしまったよ。考えてみれば、これはラビ振動と全く同じ物理的な状況だね。

\[\begin{align}
i
\end{align}\tag{10}\]

ヘリウム原子基底状態の動径確率密度分布

前回を踏まえて、ヘリウム原子基底状態の動径確率密度分布を計算したので、報告するよ。次のグラフでは、ヘリウム原子基底状態に対する動径確率密度分布は2種類用意したよ。1つ目は「2つの電子のどちらかがその距離にいる確率密度( 青色:$\bar{P}_{100}^{Z=2}(r) $ )」、2つ目は「1つの電子が原点にいて、もう一つの電子がその距離にいる確率密度( 橙色:$P_{100}^{Z=2}(0,r) $ )」。あと比較対象として、「水素原子基底状態に対する動径確率密度分布($P_{100}^{Z=1}(r) $)」と「ヘリウム原子イオンの基底状態に対する動径確率密度分布($P_{100}^{Z=2}(r) $)」を同時にプロットしたよ。

横軸が原点からの距離、縦軸が確率密度だよ。一番強く原子核に束縛されているのが「ヘリウム原子イオンの基底状態」で、反対に最も束縛されていないのが「水素原子の基底状態」だね。つまり、原子核の電荷が $Z=2$ で電子が1個の場合が一番強く束縛されて、$Z=1$ で電子が1個の場合が最も束縛が弱いね。2種類用意したヘリウム原子を比較すると、1個を原点に存在する「橙色:$P_{100}^{Z=2}(0,r) $」は、他方の「青色:$\bar{P}_{100}^{Z=2}(r) $」と比較して、電子間の反発でより遠くに存在することがわかるね。


ヘリウム原子のエネルギー準位と固有関数の空間分布(直交系展開によるエネルギー固有状態の計算結果)

ヘリウム原子のエネルギー固有状態の計算方法」に基づいて、ヘリウム原子のエネルギー準位と固有関数の空間分布を計算したよ。「ヘリウム原子の基底状態の計算結果」で示したとおり、計算結果はよく知られた精密な実験結果とかなり一致しているよ。

ヘリウム原子のエネルギー準位

次の図は、パラ(対称関数・スピン1重項)とオルト(反対称関数・スピン3重項)の主量子数 $n=1,2,3$
のエネルギー準位だよ。オルトのほうがパラよりも若干小さな値となるね。これは交換相互作用の結果だね。イオン化エネルギーは、電子2個の基底状態から電子1個を引き離すために必要なエネルギーで、「基底状態エネルギー($-79.18[{\rm
eV}]$)」から「電子が1個のみのヘリウム原子の基底状態エネルギー( $-54.4[{\rm eV}]$ )」で計算できるよ。

ヘリウム原子の固有状態の空間分布

今回も独立電子近似の場合と同様、粒子の1つが
$\varphi_{100}(\boldsymbol{r})|$の最も確率の高い原点( $\boldsymbol{r}_1=0$ あるいは $\boldsymbol{r}_2=0$
)に存在するとして、他方の粒子の空間確率密度を描画するよ。最初の表がパラヘリウム(対称関数・スピン1重項)、次の表がオルトヘリウム(反対称関数・スピン3重項)だよ。


(※実際の表はこちらのページを見てね!)

ちなみにヘリウム原子の場合、直交関数系は $(1,0,0)$ を必ず含むよ。なぜならば、$(1,0,0)$ から次に低い $(2,0,0)$ とした場合の固有エネルギーは約 $-20[{\rm eV}]$
で、イオン化エネルギーよりも高くなるために実質的には先に電離してしまうね。


水素原子基底状態のフーリエ変換

あとで、電磁波(古典)による「光電効果」(束縛状態の電子が外場によって非束縛状態へ遷移する効果)をシミュレーションしたいので、その準備として、水素原子に束縛された固有状態のフーリエ変換を数値的に調べておくよ。$ \boldsymbol{k} = \frac{2\pi}{L}(n_x, n_y, n_z) $ で、$L$ は空間サイズで $V =L^3$、 $n_x, n_y, n_z$ は整数として、固有状態の波数成分 $\varphi_{nlm}( \boldsymbol{k} )$ は、

\begin{align}
\varphi_{nlm}( \boldsymbol{k} ) = \frac{1}{\sqrt{V}} \int \varphi_{nlm}( \boldsymbol{r} ) e^{-i \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r} }dV
\end{align}

で表すことができるね。とりあえず、基底状態 $\varphi_{100}( \boldsymbol{k} ) $ の波数空間分布を示すよ( $\varphi_{100}( \boldsymbol{k} ) $ の $kx-ky$ 平面上の値を、大きさは不透明度、位相は色で表しているよ)。


ヘリウム原子波動関数の空間分布(独立電子近似)

独立電子近似の場合、ヘリウム原子の2つの電子の波動関数は、個々の水素様原子( $Z=2$ )の波動関数の積を用いて、空間対称(スピン3重項/パラ)あるいは空間反対称(スピン1重項/オルト)の2つの状態をとるよ。具体的な波動関数の表式はそれぞれ

\begin{align}
\chi^{(S)}_{(n_1l_1m_1)(n_2l_2m_2)}(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) &\ = \frac{1}{\sqrt{2}} \left[ \varphi_{n_1l_1m_1}(\boldsymbol{r}_1)\varphi_{n_2l_2m_2}(\boldsymbol{r}_2) + \varphi_{n_1l_1m_1}(\boldsymbol{r}_2)\varphi_{n_2l_2m_2}(\boldsymbol{r}_1)\right] \\
\chi^{(A)}_{(n_1l_1m_1)(n_2l_2m_2)}(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) &\ = \frac{1}{\sqrt{2}} \left[ \varphi_{n_1l_1m_1}(\boldsymbol{r}_1)\varphi_{n_2l_2m_2}(\boldsymbol{r}_2) – \varphi_{n_1l_1m_1}(\boldsymbol{r}_2)\varphi_{n_2l_2m_2}(\boldsymbol{r}_1)\right] \\
\end{align}

と表されるね。この波動関数は各粒子ごとに3次元で合計で6次元の関数なので、これを描画するには工夫が必要になるよ。1番基本的な考え方は、空間位置 $ \boldsymbol{r} $ に粒子1あるいは粒子2が存在する空間確率密度を

\begin{align}
\rho( \boldsymbol{r} ) = \frac{1}{2} \int |\chi_{(n_1l_1m_1)(n_2l_2m_2)}(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}) |^2 dV_1 + \frac{1}{2} \int |\chi_{(n_1l_1m_1)(n_2l_2m_2)}(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{r}_2) |^2 dV_2
\end{align}

と定義することで、空間分布を計算することができるね。ただし、これを先の $\chi^{(S)}$ と $\chi^{(A)}$ に適用すると、

\begin{align}
\rho^{(S)}( \boldsymbol{r} ) &\ = |\varphi_{n_1l_1m_1}(\boldsymbol{r})|^2 + |\varphi_{n_2l_2m_2}(\boldsymbol{r})|^2\\
\rho^{(A)}( \boldsymbol{r} ) &\ = |\varphi_{n_1l_1m_1}(\boldsymbol{r})|^2 + |\varphi_{n_2l_2m_2}(\boldsymbol{r})|^2
\end{align}

となって、それぞれの粒子の空間分布の和となるね。ヘリウム原子の低エネルギーの状態は、粒子の片方は必ず $(n,l,m)=(1,0,0)$ に存在するので、先の空間確率密度を数値的に計算すると、他方の粒子がどの準位に存在したとしても、 $|\varphi_{100}(\boldsymbol{r})|^2 >> |\varphi_{nlm}(\boldsymbol{r})|^2 $ となって、実質的に $|\varphi_{100}(\boldsymbol{r})|^2$ となってしまうね。これは、2つの粒子が存在する確率が $|\varphi_{100}(\boldsymbol{r})|^2$ で表される領域に集中していることを意味しているよ。

そこで今回は、粒子の1つが $\varphi_{100}(\boldsymbol{r})|$の最も確率の高い原点( $\boldsymbol{r}_1=0$ あるいは $\boldsymbol{r}_2=0$ )に存在するとして、他方の粒子の空間確率密度

\begin{align}
\rho^{(S)}( \boldsymbol{r} ) = \frac{1}{2}|\chi^{(S)}_{(n_1l_1m_1)(n_2l_2m_2)}(0, \boldsymbol{r})|^2 +\frac{1}{2}|\chi^{(S)}_{(n_1l_1m_1)(n_2l_2m_2)}(\boldsymbol{r}, 0)|^2 \\
\rho^{(A)}( \boldsymbol{r} ) = \frac{1}{2}|\chi^{(A)}_{(n_1l_1m_1)(n_2l_2m_2)}(0, \boldsymbol{r})|^2 +\frac{1}{2}|\chi^{(A)}_{(n_1l_1m_1)(n_2l_2m_2)}(\boldsymbol{r},0)|^2
\end{align}

を定義して、空間分布を描画したよ。ちなみに両者とも第1項目と第2項目の値は同じ値となるよ。


(※実際の表はこちらのページを見てね!)

上記の結果は単に $|\varphi_{nlm}(\boldsymbol{r})|^2$ を計算した結果に似ているけれども異なるよ。空間対称関数と空間反対称関数では、概ね同じだけれども顕著に異なるのが、2個目の粒子の状態が $(n,l,m) =(2,0,0)$ や $(n,l,m) =(3,0,0)$ で、原点を中心に存在する場合だね。これは、空間対称関数の場合には、同じ領域に居ようとするけれども、空間反対称関数の場合には、互いに避けようとする結果だね。次回は、電子間の相互作用を加味した波動関数を描画するよ。


ヘリウム原子の基底状態の計算結果

前回、ヘリウム原子の電子状態の計算方法を示したね。その計算結果のうち、今回は基底状態を示すよ。ヘリウムの基底状態は2つの電子のスピンが上向きと下向きの反対称で、波動関数の空間部分は対称関数となるね。そのため、正規直交完全系をなす対称関数で展開して

\begin{align}
\psi^{(S)}(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) &\ = \sum_{\alpha,\alpha’} s_{\alpha\alpha’}\chi^{(S)}_{\alpha\alpha’}(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2)
\end{align}

エネルギー固有状態を計算したよ。その結果、基底状態のエネルギー固有値が $ E_{\rm calculate} = -79.18 [{\rm eV}]$ となって、よく知られた実験値 $E_{\rm experiment } = -78.98 [{\rm eV}] $ と比較してわずか $0.2\%$ のずれの結果を得ることができたよ。

計算結果:ヘリウム原子の基底状態

基底状態の固有関数は、水素様原子 $(1s)^2$ の固有関数 $\chi^{(S)}_{1s1s}$ と $(1s)(2s)$ の固有関数 $\chi^{(S)}_{1s2s}$の2つの項の重ね合わせ

\begin{align}
\psi^{(S)}(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) = s_{1s1s}\chi^{(S)}_{1s1s}(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) + s_{1s2s}\chi^{(S)}_{1s2s}(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2)
\end{align}

で、$ s_{1s1s} \simeq 0.922 \ , \ s_{1s2s} \simeq -0.384 $ の場合に

\begin{align}
E_{\rm calculate} =\int \!\!\! \int \psi^{(S)}(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2)^* \hat{H} \psi^{(S)}(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) dV_1dV_2 \simeq -79.18 [{\rm eV}]
\end{align}

となるよ。この結果は、非摂動1電子近似の $ -108.8 [{\rm eV}] $、1次の摂動近似の $-74.8 [{\rm eV}]$、1電子近似に変分法を適用した $-77.5[{\rm eV}]$ と比較して、実験結果を非常によく一致しているね。つまり、ヘリウム原子の基底状態は $ |s_{1s1s}|^2 \simeq 0.850 \ , \ |s_{1s2s}|^2 \simeq 0.147 $ の割合で水素様原子固有状態 $\chi^{(S)}_{1s1s}$ と $\chi^{(S)}_{1s2s}$ の状態が重ね合わさった状態であることがわかったよ。ちなみに $\chi^{(S)}_{1s1s}$ と $\chi^{(S)}_{1s2s}$ は次のとおりだよ。

\begin{align}
\chi^{(S)}_{1s1s}(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) &\ = \varphi_{100}(\boldsymbol{r}_1)\varphi_{100}(\boldsymbol{r}_2)\\
\chi^{(S)}_{1s2s}(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) &\ = \frac{1}{\sqrt{2}}\left[\varphi_{100}(\boldsymbol{r}_1)\varphi_{200}(\boldsymbol{r}_2)+\varphi_{100}(\boldsymbol{r}_2)\varphi_{200}(\boldsymbol{r}_1)\right]
\end{align}

ヘリウム原子の電子の波動関数は2変数関数なので、3次元空間で波動関数を表すことが単純にはできないね。次回、波動関数の可視化を工夫してみよう。また、ヘリウム原子の電子のエネルギー準位を整理してまとめるよ。