電子が持つ内部自由度「スピン角運動量」を復習しよう!

電子は原子の周りの軌道を回っているね。この運動は軌道角運動量という物理量で表すことができるんだったね。
一方、電子にはスピン角運動量と呼ばれる、古典力学の自転に対応する物理量が存在するよ。
このスピン角運動量の任意の成分が、不思議にも$\hbar/2$あるいは$-\hbar/2$のどちらかの値しか取り得ないことがシュテルン―ゲルラッハの実験にて示されたんだったね。
通常、スピン角運動量のz成分が$\hbar/2$の状態を「上向きの状態」、$-\hbar/2$の状態を「下向きの状態」とするよ。
このように2つの状態しか取り得ないスピンは「スピン1/2の系」とも呼ばれるよ。
なお、スピン角運動量は角運動量の一種だけれども、軌道角運動量とは独立した量だよ。

スピン1/2の系の数理

スピン角運動量は $\hat{\boldsymbol{S}}$ と表し、通常の角運動量の同様の取り扱いを行うことができるよ。

スピン角運動量の交換関係

\begin{align}
[\hat{S}_x, \hat{S}_y] = i\hbar \hat{S}_z \ , \ \
[\hat{S}_y, \hat{S}_z] = i\hbar \hat{S}_x \ , \ \
[\hat{S}_z, \hat{S}_x] = i\hbar \hat{S}_y
\end{align}

スピン角運動量の固有状態

スピン角運動量のz成分を $\hat{S}_z$ 、その固有値を $\pm\hbar/2$ 、対応する固有関数を $\alpha$ と $\beta$ と表すと、次の関係があるね。

\begin{align}
\hat{S}_z \alpha &= \frac{\hbar}{2} \alpha \\
\hat{S}_z \beta &= -\frac{\hbar}{2} \beta
\end{align}

一般に、角運動量 $\boldsymbol{L}$ の大きさを $l$ とした場合、$\boldsymbol{L}^2 \varphi_{lm} = l(l+1)\hbar^2 \varphi_{lm}$という関係があったので、
スピン角運動量も同様な関係(スピンの角運動量の大きさは$s=1/2$)

\begin{align}
\hat{\boldsymbol{S}}^2 \alpha &= s(s+1) \hbar^2 \alpha =\frac{3}{4}\hbar^2 \alpha\\
\hat{\boldsymbol{S}}^2 \beta &= s(s+1) \hbar^2 \beta =\frac{3}{4} \hbar^2 \beta
\end{align}

が存在するよ。

パウリのスピン行列

スピン角運動量の2つ固有関数を

\begin{align}
\alpha = \left(\matrix{ 1\cr 0} \right) \ , \ \ \beta = \left(\matrix{ 0\cr 1} \right)
\end{align}

と表した場合、スピン角運動量は次のような行列で表すことができるよ。

\begin{align}
\hat{S}_x &= \frac{\hbar }{2} \left(\matrix{ 0 & 1\cr 1 & 0 } \right) = \frac{\hbar }{2}\, \sigma_x \\
\hat{S}_y &= \frac{\hbar }{2} \left(\matrix{ 0 & -i\cr i & 0 } \right) = \frac{\hbar }{2}\, \sigma_y \\
\hat{S}_z &= \frac{\hbar }{2} \left(\matrix{ 1 & 0\cr 0 & -1 } \right) = \frac{\hbar }{2}\, \sigma_z
\end{align}

この $\boldsymbol{\sigma} \equiv (\sigma_x, \sigma_y, \sigma_z) $ がパウリのスピン行列と呼ばれ、元の交換関係を満たすよ。
そして、このパウリのスピン行列はエルミート性ユニタリ―性を満たし、さらに
$|\boldsymbol{\sigma}|^2 = \sigma_x^2 + \sigma_y^2 + \sigma_z^2 = 1 $ を満たすよ。


【メモ】2s軌道と2pz軌道の混合割合に応じた波動関数の空間分布

\begin{align}
\psi = a_{200}\varphi_{200} + a_{210}\varphi_{210}
\end{align}

$|a_{200}|^2:|a_{210}|^2 = 10:0$

$|a_{200}|^2:|a_{210}|^2 = 9:1$

$|a_{200}|^2:|a_{210}|^2 = 8:2$

$|a_{200}|^2:|a_{210}|^2 = 7:3$

$|a_{200}|^2:|a_{210}|^2 = 6:4$

$|a_{200}|^2:|a_{210}|^2 = 5:5$


静磁場が加わる場合のハミルトニアンを復習しよう!

ここからは外場として静磁場が加わるときのシミュレーションを行いたいので、まずはハミルトニアンを復習しよう!
静電場中を運動する荷電粒子の場合、ハミルトニアンのポテンシャル項に静電ポテンシャルを加えるだけだったけれども、
静磁場中を運動する荷電粒子の場合にはこのような単純な操作だけからは導くことができないね。
一旦、電磁気学に戻って、そこからハミルトニアンを導出する必要があるよ。

電磁場中を運動する荷電粒子に加わる力(ローレンツ力)

電場を$\boldsymbol{E}$、磁場を$\boldsymbol{B}$とした電磁場中を運動する荷電粒子(電荷$q$)にはローレンツ力

\begin{align}
\boldsymbol{F} = q(\boldsymbol{E} + \dot{\boldsymbol{r}}\times \boldsymbol{B})
\end{align}

が加わるんだったね。つまり、この力によって運動する荷電粒子の運動方程式は

\begin{align}
m\ddot{\boldsymbol{r}} = q(\boldsymbol{E} + \dot{\boldsymbol{r}}\times \boldsymbol{B})
\end{align}

だね。

電磁ポテンシャルとゲージ変換

一方、電場と磁場はスカラーポテンシャル$\phi$とベクトルポテンシャル$\boldsymbol{A}$を用いて

\begin{align}
\boldsymbol{E} &= -\frac{\partial \boldsymbol{A} }{\partial t} -\nabla \phi\\
\boldsymbol{B} &= \nabla \times \boldsymbol{A}
\end{align}

と表すことができるんだったね。この2つのポテンシャルは電磁ポテンシャルと呼ばれるよ。
電磁ポテンシャルが決まると電場と磁場は一意に決まるけれども、その反対は成り立たないんだよね。
同じ電場と磁場を与えるベクトルポテンシャルは無限に存在して、任意の関数 $\chi(\boldsymbol{r},t)$ を用いて

\begin{align}
\boldsymbol{A} &= \boldsymbol{A}’ + \nabla \chi\\
\phi &= \phi’ – \frac{\partial \chi}{\partial t}
\end{align}

と変換した電磁ポテンシャルも同じ電場と磁場を与えるんだね。電磁ポテンシャルに存在する任意性はゲージ自由度って呼ばれ、上記の変換ゲージ変換って呼ばれるよ。
このゲージ自由度をうまく利用することで目的とする物理系の表式を簡単にすることもできるんだよ。例えば、

\begin{align}
\nabla \cdot \boldsymbol{A}’ + \nabla^2 \chi = 0
\end{align}

を満たすようなクーロンゲージと呼ばれる$\chi$を設定することで、ベクトルポテンシャルが必ず

\begin{align}
\nabla \cdot \boldsymbol{A} = 0
\end{align}

を満たすことを強制することができて、後に静磁場中の電子を議論する際に便利だんだよね。

電磁場中を運動するラグランジアンとハミルトニアン

この$\phi$と$\boldsymbol{A}$を用いて電磁場中の荷電粒子に対するラグランジアン$L$は次のとおりに与えられるんだったね。

\begin{align}
\boldsymbol{L} = \frac{m}{2}\, \dot{\boldsymbol{r}}^2 + \dot{\boldsymbol{r}} \cdot \boldsymbol{A} -q \phi
\end{align}

ちなみに、このラグランジアンから得られるオイラー-ラグランジュ方程式を変形することで先に上げたローレンツ力による運動方程式も導出できるよ。
ラグランジアンは位置$\boldsymbol{r}$と速度$\dot{\boldsymbol{r}}$の関数だけれども、
位置($\boldsymbol{r}$)と正準運動量($\boldsymbol{p}=(p_x,p_y,p_z)$)

\begin{align}
p_j = \frac{\partial L}{\partial \dot{x}_j} = m \dot{x}_j +q A_j
\end{align}

が変数となるようにルジャンドル変換した量がハミルトニアン

\begin{align}
H = \dot{\boldsymbol{r}} \cdot \boldsymbol{p} – L = \frac{m}{2}\, \dot{\boldsymbol{r}}^2 + q \phi = \frac{1}{2m} (\boldsymbol{p} – q \boldsymbol{A})^2 + q \phi
\end{align}

だよ。ここまでは古典力学の範囲だけれども、この位置と正準運動量を演算子に置き換えて、交換関係$[\hat{x}_i, \hat{p}_j] = i\hbar \delta_{ij}$を課したのが量子力学版ハミルトニアン

\begin{align}
\hat{H} = \frac{1}{2m} (\hat{\boldsymbol{p}} – q \boldsymbol{A})^2 + q \phi
\end{align}

だね。そしてこのハミルトニアンに対するシュレーディンガー方程式は次のとおりだよ。

\begin{align}
i\hbar \frac{\partial }{\partial t}\psi(\boldsymbol{r}, t) = \hat{H} \psi(\boldsymbol{r}, t)
\end{align}

ちなみにこのような古典力学系から量子化する手順は正準量子化と呼ばれ、任意の古典力学系を量子化することができるよ。

静磁場中の電子のハミルトニアン

静磁場中の電子($q=-e$)の運動を調べるには、真空中の電子の場合にはスカラーポテンシャルをゼロ( $\phi = 0$ )、原子核に束縛されている場合にはクーロンポテンシャルを与えれば良いね。
今回、水素原子に束縛された電子を対象とするので、

\begin{align}
\hat{H} = \frac{1}{2m} (\hat{\boldsymbol{p}} + e \boldsymbol{A})^2 + V( r )
\end{align}

これがハミルトニアンだよ。さらに、先に挙げたクーロンゲージを適用すると$\hat{\boldsymbol{p}} \cdot \boldsymbol{A} =\boldsymbol{A} \cdot \hat{\boldsymbol{p}}$を満たすため、

\begin{align}
\hat{H} = \frac{1}{2m} ( \hat{\boldsymbol{p}}^2 +2e\boldsymbol{A}\cdot\hat{\boldsymbol{p}} + e^2 \boldsymbol{A}^2) + V( r )
\end{align}

となるよ。

一方、磁場の向きをz軸方向とすると$\boldsymbol{B} = (B_x, B_y, B_z)$は

\begin{align}
B_x &= \frac{\partial A_z}{\partial y} – \frac{\partial A_z}{\partial y} = 0\\
B_y &= \frac{\partial A_x}{\partial z} – \frac{\partial A_z}{\partial x} = 0\\
B_z &= \frac{\partial A_y}{\partial x} – \frac{\partial A_x}{\partial y} = {\rm Const.}
\end{align}

だけれども、これを生み出すベクトルポテンシャル $\boldsymbol{A} = (A_x, A_y, A_z )$ はクーロンゲージを課してもなお無数に存在して、例えば次の3つ

\begin{align}
\boldsymbol{A} &= (-B_zy\,,0\,,0)\\
\boldsymbol{A} &= (0,\,B_zx\,,0)\\
\boldsymbol{A} &= \left(-\frac{1}{2} B_zy\,, \frac{1}{2} B_zx \,, 0 \right)
\end{align}

は、クーロンゲージを満たしつつ、どれも同じ$\boldsymbol{B} = (0, 0, B_z)$を与えるんだよね。
前2つはランダウゲージ、最後のは対象ゲージと呼ばれているよ。
この対象ゲージを採用すると、先のハミルトニアンの$\boldsymbol{A}\cdot\hat{\boldsymbol{p}}$は、角運動量演算子$\hat{\boldsymbol{L}} = (\hat{L_x}, \hat{L_y}, \hat{L_z})$を用いて

\begin{align}
\boldsymbol{A}\cdot\hat{\boldsymbol{p}} = A_x \hat{p}_x + A_y \hat{p}_y + A_z \hat{p}_z = \frac{1}{2} B_z \left( x \hat{p}_y -y\hat{p}_x \right) = \frac{1}{2} B_z \hat{L}_z
\end{align}

と変形することができるよ。もともと磁場の向きはどちらでも良いので、$\frac{1}{2} B_z \hat{L}_z $ を $\boldsymbol{B}\cdot \hat{\boldsymbol{L}}$ と置き直せば、

\begin{align}
\hat{H} = \frac{1}{2m} ( \hat{\boldsymbol{p}}^2 + e\boldsymbol{B}\cdot \hat{\boldsymbol{L}} + e^2 \boldsymbol{A}^2) + V( r )
\end{align}

となるよ。このハミルトニアンは磁場が時間に依存しない静磁場を想定したけれども、磁場が時間に依存しても各時間ステップごとに対象ゲージの関係を満たしていると考えれば、特に問題なく成り立つと考えられるね。さらに、静電場が存在しても静電場によるポテンシャルエネルギーを$V( r )$加えても成り立つし、時間変化する電場が存在してもその影響はベクトルポテンシャル$\boldsymbol{A}$に含まれるね。つまり、このハミルトニアンは任意の電磁場中に存在する電子でそのまま成り立つよ。

$\boldsymbol{B}\cdot \hat{\boldsymbol{L}}$ の意味

$\boldsymbol{B}$ は外部磁場、$\hat{\boldsymbol{L}}$ は電子の角運動量を表す演算子なので、
古典力学と対比させると $\boldsymbol{B}\cdot \hat{\boldsymbol{L}}$ は電子の角運動量で生じる磁気モーメント$\boldsymbol{M}$と磁場との相互作用で生じるエネルギー変化分

\begin{align}
\Delta E = – \boldsymbol{B} \cdot \boldsymbol{M}
\end{align}

と考えることができるので、電子の角運動量演算子$\hat{\boldsymbol{L}}$に対する磁気モーメントの演算子$\hat{\boldsymbol{M}}$は

\begin{align}
\hat{\boldsymbol{M}} = -\frac{e}{2m} \hat{\boldsymbol{L}}
\end{align}

と関係があると言えるね。ちなみに $\hat{\boldsymbol{M}}$ は軌道磁気モーメント、$\boldsymbol{B} \cdot \boldsymbol{M}$はゼーマン項って呼ばれるよ。

静磁場中の電子のハミルトニアンの固有状態

任意の電磁場中の水素原子殻に束縛された電子のハミルトニアンは、電磁場が存在しない場合の固有状態が既知のハミルトニアン$\hat{H}_0$を用いて

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_0 + \frac{e}{2m} \boldsymbol{B}\cdot \hat{\boldsymbol{L}} + \frac{e}{2m} \boldsymbol{A}^2
\end{align}

と表されるね。静磁場を$\boldsymbol{B} = (0,0,B_z)$と表すと、

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_0 + \frac{eB}{2m} \hat{L}_z + \frac{e^2B_z^2}{8m} (\hat{x}^2 + \hat{y}^2)
\end{align}

となるね(第3項目は対称ゲージを採用しているよ)。第2項目の$\hat{L}_z$は電磁場が存在しない場合の固有関数で

\begin{align}
\hat{L}_z \varphi_{nlm} = \hbar m \varphi_{nlm}
\end{align}

という固有状態となっているから、第3項目を無視するとハミルトニアンはすでに次のようにエネルギー固有状態として解けていることになるよ。

\begin{align}
\hat{H} \varphi_{nlm} = (E_{n} + m \hbar \omega_L )\varphi_{nlm}
\end{align}

ちなみに$\omega_L$は次の式で定義される量でラーモア角振動数って呼ばれるよ。

\begin{align}
\omega_L \equiv \frac{eB}{2m}
\end{align}

つまり、縮退していたエネルギー準位は静磁場を加えることで磁気量子数 $m$ に比例した量だけ変化して縮退が解けることがわかったね。
このような静磁場によるエネルギーシフトは正常ゼーマン効果と呼ばれるよ。
ちなみに上記の議論は、外部磁場が $B^2\ll B$ の場合に正当化されるよ。
一方、外部磁場が大きくなると、ハミルトニアンの第3項目が無視できずに

\begin{align}
\left[ \hat{H}_0 + \frac{eB}{2m} \hat{L}_z + \frac{e^2}{8m} (\hat{x}^2 + \hat{y}^2) \right] \psi = E \psi
\end{align}

という固有方程式を解く必要があるね。

外場として磁場が加えられたときの固有方程式の解き方

ここからは外場として静電場が加えられたときと同じ手順で進めるよ。外場として磁場が加えられたときの固有関数は外場がない場合の正規直交完全系をなす固有関数$\varphi_{nlm}$の重ね合わせ

\begin{align}
\psi = \sum_{n, l, m} a_{nlm} \varphi_{nlm}
\end{align}

と表わすことができるよ。$a_{nlm}$は展開係数だね。
展開係数が決定できれば固有方程式を解いたことになるので、展開係数に関する方程式を導く必要があるよ。
まずは代入して、

\begin{align}
\sum_{n, l, m} a_{nlm} \left[ E_{n} + m \hbar \omega_L + V \right] \varphi_{nlm} = E \sum_{n, l, m} a_{nlm} \varphi_{nlm}
\end{align}

そして、両辺に$\varphi_{nlm}$の複素共役$\varphi_{n’l’m’}^*$を掛けて全空間で積分すると

\begin{align}
(E_{n’} + m’ \hbar \omega_L)a_{n’l’m’} + \sum_{n, l, m}a_{nlm} V^{n’l’m’}_{nlm} = E a_{n’l’m’}
\end{align}

となって、$a_{n’l’m’}$に関する連立方程式が導かれるんだね。$V^{n’l’m’}_{nlm}$は式を簡略化するために改めて定義した

\begin{align}
V^{n’l’m’}_{nlm} \equiv \int_0^\infty\!\!\! r^2 dr \int_0^\pi \!\!\! \sin\theta d\theta \int_0^{2\pi} \!\!\! d\phi \left[\varphi_{n’l’m’}^* V \varphi_{nlm} \right]
\end{align}

だよ。連立方程式は行列で表すとわかりやすくなるので、エネルギーの小さい順に固有関数の係数を並べると次のようになるよ。

\begin{align}
\left(\matrix{ E_1 +V_{100}^{100} & V_{200}^{100}& V_{21-1}^{100} & V_{210}^{100} & V_{211}^{100} & \cdots \cr
V_{100}^{200} & E_2 + V_{200}^{200}& V_{21-1}^{200} & V_{210}^{200} &V_{211}^{200} &\cdots \cr
V_{100}^{21-1} & V_{200}^{21-1} & E_2 -\hbar \omega_L + V_{21-1}^{21-1} & V_{210}^{21-1}& V_{211}^{21-1}& \cdots \cr
V_{100}^{210} & V_{200}^{210} & V_{21-1}^{210} & E_2 + V_{210}^{210}& V_{211}^{210}& \cdots \cr
V_{100}^{211} & V_{200}^{211} & V_{21-1}^{211} & V_{210}^{211}& E_2 + \hbar \omega_L+ V_{211}^{211}& \cdots \cr
\vdots & \vdots & \vdots & \vdots & \vdots & \ddots } \right) \left(\matrix{ a_{100} \cr a_{200} \cr a_{21-1} \cr a_{210} \cr a_{211} \cr \vdots }\right) = E \left(\matrix{ a_{100} \cr a_{200} \cr a_{21-1} \cr a_{210} \cr a_{211} \cr \vdots }\right)
\end{align}

まさに行列表した固有値方程式の形になっているのがわかるね。
これで固有値と固有ベクトルを計算すると、固有値はそのまま外場が加えられた場合のエネルギー、固有ベクトルがそのまま展開係数の値そのものになるね。
次回は、外場として磁場を加えたときの様子をシミュレーションします!

まとめと今後の予定

わかったこと

  • 静磁場が弱い場合には固有状態は静磁場が存在しない場合と同じ。
  • 静磁場が強い場合でも数値計算で固有状態を計算することができる。

今後の予定(宿題メモ)

  • 今度は外場として時間に依存しない磁場を加えてみよう!
  • 1次のシュタルク効果を示す電気双極子の分極率を調べてみよう!
  • 2次のシュタルク効果で生じる電気双極子の分極率を調べてみよう!
  • 電場をもっともっと強くしたときの状態(電離状態との結合)を調べてみよう!


さらに強い電場を加えたときの電子状態をシミュレーションしてみよう!(2次のシュタルク効果の計算結果を示すよ!)

前回、水素原子殻の周りを回る電子に外場として時間に依存しない電場を加えたときの変化をシミュレーションしたね。
今度はさらに強力な電場を加えたときの様子をシミュレーションしてみよう!

電場強度を10倍まで高めたときのエネルギー準位

次のグラフは電場強度を$10^{8}[{\rm V/m}]$を単位として0から100まで強くしていったときのエネルギー準位の変化だよ。
多くのエネルギー準位は電場強度に比例して下がっていくのがわかるね。これは同一主量子数のs軌道とpz軌道が混ざりあうことで自発的に生成される電気双極子と電場との相互作用で生じる結果だったね(1次のシュタルク効果)。

2次のシュタルク効果って言うんだよ!

今回着目するのは基底状態のエネルギーの変化だよ。このエネルギー領域を拡大すると次のような結果になるよ。
弱い電場ではほとんど変化が見られなかったけれども、電場を強くすると電場の2乗に比例したエネルギーの減少が見えるね。
これは2次のシュタルク効果って呼ばれるよ。でもエネルギーの変化はわずかだね。

基底状態の波動関数を確かめよう!

2次のシュタルク効果が生じているときの基底状態の成分を調べてみよう!
下の図が結果だよ。およそ99.8%は$\varphi{100}$で、0.15%が$\varphi{210}、$0.02%が$\varphi{310}$と$\varphi{410}$って感じだね。
3次元分布の見た目は基底状態と変わらないから省略するね。

2次のシュタルク効果が生じる理由は?

2次のシュタルク効果が生じる定性的な説明は次のとおりだよ。
基底状態(n=1)は自発的には電気双極子モーメントが存在しないけど、強い電場によって第1励起状態(n=2)以上ののpz軌道と結合が促されて電気双極子モーメント

\begin{align}
p_z \propto -E_z
\end{align}

が誘起されて、その電気双極子と電場の相互作用

\begin{align}
\Delta E \propto p_z E_z \propto – E_z^2
\end{align}

でエネルギーが下がるっていう感じだね。2次のシュタルク効果の正体がわかったね!パチパチ!
そして、1次のシュタルク効果とは発生メカニズムが異なることもわかったね。

さらに強い電場を加えると基底状態が入れ替わっちゃうよ!

今回最初に示したエネルギー準位の電場依存性をみるとわかるけど、さらに電場を強くすると一番エネルギーが低い状態が主量子数1のものから、もともと励起状態の重ね合わせのものに入れ替わっちゃうね。そのときの波動関数の成分をシミュレーションした結果が次の図だよ($E_z=2.0\times 10^{10}$)。
主成分は第3励起状態(n=4)の自発的電気双極子で、すこしだけ第2励起状態(n=3)の自発的電気双極子も混じっていることがわかるね。

次の図は波動関数の3次元空間分布だよ。下の方($z<0$)に電子分布が偏っているね。

まとめと今後の予定

わかったこと

  • 強い電場を加えると基底状態のエネルギーも変化する。
  • エネルギーの変化量は電場の大きさの2乗に比例する。 → 2次のシュタルク効果
  • 2次のシュタルク効果の正体は誘起電気双極子と電場との相互作用!! → 1次と2次で発生メカニズムが異なる

今後の予定(宿題メモ)

  • 今度は外場として時間に依存しない磁場を加えてみよう!
  • 1次のシュタルク効果を示す電気双極子の分極率を調べてみよう!
  • 2次のシュタルク効果で生じる電気双極子の分極率を調べてみよう!
  • 電場をもっともっと強くしたときの状態(電離状態との結合)を調べてみよう!


水素原子に電場を加えたときの波動関数を可視化してみよう!(1次のシュタルク効果の正体が判明!)

前回、水素原子に電場を加えたときのエネルギー準位の変化をシミュレーションしたね。
具体的には4重縮退だった第一励起状態(2s軌道と2p軌道)は、電場を加えることで2つの縮退がない状態と1つの2重縮退の状態に別れたね。
この状態に着目して電場を加えたときの電子の波動関数の様子をシミュレーションしてみよう!

電場がない場合の第1励起状態の固有状態を復習しよう!

電場がない状態で4重縮退している第一励起状態2s軌道($n=2, l=0, m=0$)と2p軌道($n=2, l=1, m=\pm 1 , 0$)を復習しよう!
$l=0$の2s軌道は2重殻構造の球対称型、$l=1$の2p軌道は$m=0$がz軸に対する軸対称の8の字型、$m=-1$と$m=1$がz軸を中心にそれぞれ逆回転するドーナッツ型だったね。
これら4つの状態はエネルギーが同一であるため、電子はこれらの状態を自由に行き来することができるんよね。
つまり、このエネルギーに存在する電子の実際の波動関数はこれら4つの状態は自由な重ね合わせで表されることを理解しておこう!

$\varphi_{200}$ $\varphi_{21-1}$ $\varphi_{210}$ $\varphi_{21+1}$

エネルギーが最も低い固有状態をシミュレーション!

z軸方向に電場を加えるとどうなるだろう?さっそくシミュレーションしてみよう!次の図は、第1励起状態(n=2)で最もエネルギーが低い固有状態の成分の電場強度依存性を表した図だよ。

$E_z=0$のときに$\varphi_{200}$100%だった状態から、電場を加えた瞬間に$\varphi_{200}$と$\varphi_{210}$が50%づつ混ざった状態に変化したことを表しているよ。
この固有状態の波動関数を見てみよう!


左図が単振動アニメーション、右図が静止画に説明を加えた図だよ。
もともと$\varphi_{200}$と$\varphi_{210}$を重ねた状態は電子の分布がz軸方向で対称ではないから、電気双極子になっているんだね。
外部から電場が加えられるとエネルギーが低くくなる方向に電気双極子が向くんだね。

エネルギーが最も高い固有状態をシミュレーション!

第1励起状態(n=2)で最もエネルギーが低い固有状態の成分の電場強度依存性を表した図だよ。
同じ50%同士の重ね合わせでも符号が反対の場合には、エネルギーが高くなるよ。

電子の空間分布はさっきと反対になってるね。つまり、もともと存在する電気双極子によって、電場を加えることでエネルギーが高くなる状態と低くなる状態が生み出されることがわかったね。
電気双極子と電場との相互作用で生じるエネルギーシフトは電場に比例するから、1次のシュタルク効果の正体がわかったね!パチパチ!


電場を強くすると。。。

電場を$E_z=1.0\times10^9$から$E_z=10.0\times10^9$まで強くしても、$\varphi_{200}$と$\varphi_{210}$の混合割合はほとんど50%で変化しないけれども、
下の図で示したとおり、小さな確率だけれども実はちょっとずつ他の固有状態が混じってくる割合が高くなっていくんだね。
しかも、割合は電場強度に比例せずに、変化の割合は大きくなっているね。これは電場強度をもっともっと強くすると影響が出てきそうだね。

エネルギーが変化しない2重縮退の固有状態をシミュレーション!

$\varphi_{21+1}$と$\varphi_{21-1}$に電場を加えると、下の図で示すように2つの状態が徐々に混合することがわかったよ。
たまたまだけれども、ちょうど$E_z=10.0\times10^9$でおおよそ50%づつの混合割合になることがわかったよ。

$E_z=1.0\times10^9$の場合と$E_z=10.0\times10^9$の場合の波動関数をそれぞれ見てみよう!

$E_z=1.0\times10^9$のときの固有状態

$E_z=1.0\times10^9$のときの混合割合はおよそ1:9程度だね。x軸上とy軸上がそれぞれ腹になっている感じがわかるね。


$E_z=10.0\times10^9$のときの固有状態

$E_z=10.0\times10^9$のときの混合割合はほとんど1:1だね。x軸上とy軸上が腹の定常波になっていることがわかるね。それぞれ$p_x$軌道、$p_y$軌道だね。


ちなみにこの状態も電場が強くなるにつれて、僅かだけれどもも下の図で示したように他の状態が少しづつ混合してくよ。

まとめと今後の予定

わかったこと

  • 第1励起状態で存在する自発的な電気双極子によって、エネルギーシフトが生じる。
  • 1次のシュタルク効果の正体は、電気双極子と電場の相互作用!!
  • ちょうど$E_z=10.0\times10^9$あたりで、いわゆる$p_x$軌道、$p_y$軌道が固有状態となる

今後の予定

  • 電場をもっと強くしたときの変化を調べてみよう!
  • 1次のシュタルク効果で生じる電気双極子の分極率を調べてみよう!


水素原子に電場を加えたときのエネルギー準位をシミュレーションしてみよう!(1次のシュタルク効果の計算結果を示すよ!)

前回、水素原子殻の周りを回る電子のハミルトニアンに外場を加えたときを対象として、
外場が加わる前の固有状態で展開したときの展開係数$a_{nlm}$を基底とした行列を定義することができて、
その固有値がエネルギー、固有ベクトルが展開係数の値となることを復習したね。
今回は、外場として時間に依存しない電場を加えたときの変化をシミュレーションしてみよう!

電場を加えたときのハミルトニアン

電荷$q$の荷電粒子に電場$\boldsymbol{E}$が加えられると、荷電粒子には$\boldsymbol{F} = q\boldsymbol{E}$の力が加わるんだったよね。
電場が時間・空間に依存しない一定値の場合には、原点を基準とした電子のポテンシャルエネルギー($q=-e$)は

\begin{align}
V = – q \boldsymbol{E} \cdot \boldsymbol{r} = e \boldsymbol{E} \cdot \boldsymbol{r}
\end{align}

となるんだったね。つまりこのポテンシャルエネルギーが、外場無しのハミルトニアンに加えられることになるよ。

\begin{align}
\hat{H} = \hat{H}_0 + V = \hat{H}_0 + e \boldsymbol{E} \cdot \boldsymbol{r}
\end{align}

電場を加えたときの固有値方程式の計算方法

この外場のポテンシャルを前回導出した行列に代入して行列の固有方程式を計算することで、電子が受ける電場の影響を計算することができるよ。
そのためには行列要素をまずは計算する必要があるよ。今回、電場の向きをz軸方向($\boldsymbol{E} = (0, 0, E_z)$)とした場合、
ポテンシャルエネルギーは電子のz座標だけに依存して、$V = e E_z z$と表されるよ。つまり、行列要素に現れる$V^{n’l’m’}_{nlm}$は次の3重積分

\begin{align}
V^{n’l’m’}_{nlm} = e E_z \int_0^\infty\!\!\! r^2 dr \int_0^\pi \!\!\! \sin\theta d\theta \int_0^{2\pi} \!\!\! d\phi \left[\varphi_{n’l’m’}^* z \varphi_{nlm} \right]
\end{align}

で得られ、これを用いて固有方程式を計算するという流れになるね。この3重積分と行列の固有値方程式の計算はすべてコンピュータにまかせちゃうよ。
ちなみに、展開する固有状態の数(n, l, m)を大きくするほど計算精度が高くなるけれども、その分だけ計算時間が必要になるんだよね。

電場を加えたときのエネルギー順位の変化

電場$E_z = 10^{9}[{\rm J/m}]$を単位として、徐々に強くしたときのエネルギー準位の変化を見てみよう!$10^{9}$というととても大きな値のように感じるけれど、
ちょうど$10^{9}$というが電子が電場から受ける力と、原子核から受ける力だいたい同じスケールになるんだよね。

主量子数n=3まで展開した場合のエネルギー準位

次のグラフは主量子数n=3まで展開した場合のエネルギー準位の電場依存性の計算結果だよ。横軸が電場、縦軸がエネルギー準位だよ。
$E_z=0$のエネルギー準位は$E_n\simeq -13.6/n^2 [{\rm eV}]$で、基底状態(n=1)はほとんど変化しているようには見えないけど、
n=2やn=3の状態は電場が大きくなるにつれて縮退が解けていく様子が見えるね。

第1励起状態(n=2)と第2励起状態(n=3)の近傍を拡大してみよう!

まずは第1励起状態(n=2)の近傍を拡大してみるね。もともと4重縮退だった第1励起状態のうち2つが電場の大きさに比例して、上下に別れていくのがわかるね。
でもこの真ん中の2つの状態は電場が加えられてもびびくともしてないね。

次は第2励起状態(n=3)の近傍を拡大してみるね。もともと9重縮退だった第2励起状態のうち7つが電場の大きさに比例して、上下に別れていくのがわかるね。
そのうち1つは他の6つに比べると変化の割合は小さいけれどもね。
第1励起状態と同じように真ん中の2つの状態は電場が加えられてもびびくともしてないね。

1次のシュタルク効果って言うんだよ!

このように外部電場によってエネルギー準位の縮退が解けることは、〇〇年にシュタルクさんによって発見されたんだって。
それでシュタルク効果って呼ばれるよ。今回シミュレーションで示したのはエネルギーのズレが外部電場に比例しているので、1次のシュタルク効果って言われているんだってね。ちなみにさらに電場を強くすると、今回全くびくともしなかった基底状態(n=1)のエネルギーも変化するんだよ。これは今後シミュレーションしてみよう!

主量子数n=5まで展開した場合のエネルギー準位

先の結果は、ハミルトニアンの固有状態を主量子数n=3まで展開した場合のエネルギー準位だったね。
次はより精度高めるために主量子数n=5まで展開した計算結果のうち、n=1からn=3までのエネルギー準位を示すよ。
n=1とn=2のエネルギー準位は変化が無いように見えるけど、n=3のエネルギー準位の電場が大きいほど形が崩れている感じがするね。
さっきと同様にn=2とn=3のエネルギー近傍を拡大してみよう!

第1励起状態(n=2)と第2励起状態(n=3)の近傍を拡大してみよう!

まずは第1励起状態(n=2)の近傍を拡大してみるね。n=3まで展開した場合と今回のn=5までの場合で変化はほとんどなさそうだね。

次は第2励起状態(n=3)の近傍を拡大してみるね。電場が$3\times10^{9}$までは、n=3まで展開した場合とほとんど一緒だけれども、
それよりも大きな電場の場合には、全体的にエネルギーは下がっていく傾向が確かめられるね。これはどうしてだろうね。
きっと第3励起状態(n=4)の固有状態と結合してより小さなエネルギー固有状態が実現できているんだね。

電場を加えるとなぜエネルギー準位が変化するのか?

これまで線形独立だった元の固有状態は、電場を加えることで関係性をもっちゃうよ。
その結果、元の固有状態の足し引きした状態が、電場を加えたハミルトニアンの新たな固有状態となって、新しいエネルギー準位を決定することになるんだね。
電場を加えることでエネルギーが上下することを定性的に考えてみると、電場はもともと電子にとって坂道みたいなものなので、坂道の下に行ける電子状態と上に行く電子状態が生まれるということかな。

まとめと今後の予定

わかったこと

  • 外場として電場を加えると、各エネルギー準位の縮退が大部分が解ける。
  • エネルギーの変化量は電場の大きさに比例する。 → 1次のシュタルク効果

今後の予定

  • 1次のシュタルク効果の電子分布を調べてみよう!
  • 電場をもっと強くしたときの変化を調べてみよう!