原子の周りの軌道を回っている電子には、軌道角運動量とスピン角運動量の2つの角運動量が存在することは、これまで復習したね。
この2つの角運動量を考慮したときの固有状態がどのようになるかを復習しよう。
軌道角運動量演算子とスピン角運動量演算子の和:全角運動量演算子
軌道角運動量演算子 $\hat{\boldsymbol{L}}$ とスピン角運動量演算子 $\hat{\boldsymbol{S}}$ の和は全角運動量演算子と呼ばれ、全角運動量演算子は $\hat{\boldsymbol{J}} = \hat{\boldsymbol{L}} +\hat{\boldsymbol{S}} $ と表されるよ。
もともと $\hat{\boldsymbol{L}}$ と $\hat{\boldsymbol{S}}$ は交換するため、これらは $\hat{\boldsymbol{J}}$ とも交換するね。
また、$\hat{\boldsymbol{J}}$ の各成分を $\hat{J}_x, \hat{J}_y, \hat{J}_z$ と表すと
\begin{align}
[\hat{J}_x, \hat{J}_y] &= [\hat{L}_x, \hat{L}_y] + [\hat{S}_x, \hat{S}_y] = i\hbar \hat{J}_z \\
[\hat{J}_y, \hat{J}_z] &= [\hat{L}_y, \hat{L}_z] + [\hat{S}_y, \hat{S}_z] = i\hbar \hat{J}_x \\
[\hat{J}_z, \hat{J}_x] &= [\hat{L}_z, \hat{L}_x] + [\hat{S}_z, \hat{S}_x] = i\hbar \hat{J}_y
\end{align}
という、角運動量の通常の交換関係を満たすね。
また、$\hat{J}_z$ と $\hat{\boldsymbol{J}}^2$ は交換することも示すこともできて、それぞれの固有値を $ m_j\hbar$ と $j(j+1) \hbar^2$、同時固有関数を $\varphi_{jm_j}$ として、
\begin{align}
\hat{J}_z \varphi_{jm_j} &= m_j \hbar \varphi_{jm_j} \\
\hat{\boldsymbol{J}}^2 \varphi_{jm_j}&= j(j+1) \hbar^2 \varphi_{jm_j}
\end{align}
と表されるね。この同時固有関数 $\varphi_{jm_j}$ は、軌道角運動量演算子とスピン角運動量演算子を合成した新しい全角運動量演算子に対する正しい固有関数になっているよ。
この新しい量子数 $j$ と $m_j$ は、方位量子数 $l$ に対して次の半整数値を取るよ。
\begin{align}
\left|l – \frac{1}{2}\right| \leq &\ j \leq l + \frac{1}{2} \\
– \left(l + \frac{1}{2} \right) \leq &\ m_j \leq l + \frac{1}{2}
\end{align}
ただし、$j \geq 0 $ だよ。
これまで、水素原子の電子の固有状態はこれまでは主量子数 $n$、方位量子数 $l$、磁気量子数 $m$ の3つの量子数で指定することができたけれども、
スピン角運動量を導入して上記の固有状態を用いると、$n$ と $j$ と $m_j$ の3つの量子数ですべての状態を指定することができるよ。
水素原子中の電子の固有関数
上記の規則に則って、主量子数1から3までの固有状態をリスト化するよ。
$n$ | $l$ | $j$ | $m_j$ | 記号 |
---|---|---|---|---|
$1$ | $0$ | $\frac{1}{2}$ | $ -\frac{1}{2}$ | $^{1}S_{\frac{1}{2}}$ |
$ \frac{1}{2}$ | ||||
$2$ | $ 0$ | $\frac{1}{2}$ | $ -\frac{1}{2}$ | $^{2}S_{\frac{1}{2}}$ |
$ \frac{1}{2}$ | ||||
$ 1$ | $\frac{1}{2}$ | $ -\frac{1}{2}$ | $^{2}P_{\frac{1}{2}}$ | |
$ \frac{1}{2}$ | ||||
$\frac{3}{2}$ | $-\frac{3}{2}$ | $^{2}P_{\frac{3}{2}}$ | ||
$-\frac{1}{2}$ | ||||
$\frac{1}{2}$ | ||||
$\frac{3}{2}$ | ||||
$3$ | $ 0$ | $\frac{1}{2}$ | $ -\frac{1}{2}$ | $^{3}S_{\frac{1}{2}}$ |
$ \frac{1}{2}$ | ||||
$ 1$ | $\frac{1}{2}$ | $ -\frac{1}{2}$ | $^{3}P_{\frac{1}{2}}$ | |
$ \frac{1}{2}$ | ||||
$\frac{3}{2}$ | $-\frac{3}{2}$ | $^{3}P_{\frac{3}{2}}$ | ||
$-\frac{1}{2}$ | ||||
$\frac{1}{2}$ | ||||
$\frac{3}{2}$ | ||||
$ 2$ | $\frac{3}{2}$ | $-\frac{3}{2}$ | $^{3}D_{\frac{3}{2}}$ | |
$-\frac{1}{2}$ | ||||
$\frac{1}{2}$ | ||||
$\frac{3}{2}$ | ||||
$\frac{5}{2}$ | $-\frac{5}{2}$ | $^{3}D_{\frac{5}{2}}$ | ||
$-\frac{3}{2}$ | ||||
$-\frac{1}{2}$ | ||||
$\frac{1}{2}$ | ||||
$\frac{3}{2}$ | ||||
$\frac{5}{2}$ |
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